裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

水曜日

才能とプライド

 7時半起床。朝食、ハム、ジャガイモ炒め。朝から薄暗く、細雨冷たく降る。気圧も低く、体調スコブるふるわず。もっとも、週アス2ツ片付けてしまったし、今日は急場の原稿もなし。こういうときは雨もよいも情緒あり。・・・・・・などと思っていたのだが、週アスの前回の原稿、送る前に読み返してみたら、ネタがもうかなり古くなってしまっていた。大急ぎで手を入れるがどうもチグハグになり、仕方なく頭からほとんど書き直しとなる。早めに原稿アゲるのも考えものである。

 鶴岡から電話。昼近くまで話す。例の親から仕送り男、ボン梶本のサイトの話。面白すぎてウソだとは思うが、知人であそこをのぞいたモノカキで、“メゲた”という人も多い(ちなみにhttp://home.interlink.or.jp/~mashroom/kokuhatsu.html)。“才能”のような形のないものを商品にしているわれわれ浮草商売、売れる前には自分で自分の才能をひたすら信じていかねばならないのだから、一歩間違えればこのボンのような状態になっていた可能性は十二分にある。実際、昔の私も似たようなものだったと思う。外見においては、私や鶴岡と彼との間にどれほどの差もないのかもしれない。

 ただし、このボン梶本(実在するとしての話だが)は、才能以上に、その周囲にまとわりつくプライドを肥大させすぎている。己れのアイデンティティを、その才能を完全無欠であると信じることで成立させてしまっているから、世間の者がそれについてあれこれ意見を言うことに耐えられない。現実との軋轢を避けるために、父に代表される一般の世間を悪と規定し、否定することでかろうじて己れのプライドを保っている(どこかに自分の真の才能を完全肯定してくれる“よき人々”がいるはずと信じている)。若い世代にはよくあるパターンだし、若いということはそれだけ接触しなければならない世間も狭いから、さほど問題にもならない(現実との軋轢のない若者なんてのはモノにもなるまい)。ただ、彼のように30過ぎてなお、自己のプライドを必死で守り、世間との接触を汚辱として避けようとする、いわゆる精神的潔癖症がときおりいて、そういう人種が私のいる業界の周辺には数多く存在しており、それ故にこのサイトが見ていて限りなくイタいのである。

 昼は冷飯にお茶をぶっかけて塩辛で流し込む。モノマガから2000年関係特集で4ページやるから好きにやれ、という注文。どこまで好きにさせてくれるか。あと、復活したガロから、ガロの歩みについて何か書けという依頼。これはとりあえず打ち合わせしてから。仕事終わって郵便局へ行き、今日品物届いた古書の代金、二軒ほど送る。“○○は唐沢さん目当てに目録に載せたのですが、ご注文がありませんでしたがお気に召しませんでしたか”などと手紙が入っている店があった(笑)。

 六本木に出て、いくつか、用事をすます。そう言えば『WAVE』六本木店が再開発を期に閉店するという挨拶の葉書が来た。すでに六本木は文化送信地ではなくなってしまったらしい。

 雨、夕方にはあがるが、背中に鉄板が入ったよう。新宿のマッサージパーラーで一時間ほど揉んでもらう。パンパンになっており、指圧されて“痛い痛い”とうめきながら、いい気持ちになって時折眠ってしまった。

 9時、夕食。あこう鯛のバタ煮、薩摩揚げと豆腐の煮物、ツユク。ビデオでモンドマニアの麻薬撲滅教育ビデオ、それから昭和28年のNHKニュース。レトロの魅力を堪能。缶ビール、焼酎梅干し割2ハイ。

・今日のお料理「ツユク」
 これは昔壇一雄の『壇流クッキング』で覚えたつまみ。小さめの鍋に酒と水と塩を入れて沸かし、ネギの固いところ、ショウガ、ニンニク、セロリの茎、ニンジンなどと共に、豚ヒレ肉の固まりを入れる。鍋はこれらのもので一杯になるくらいの大きさがいい。十五分ほど茹でて、肉をきれいな布巾かペーパータオルでくるみ、皿に入れて重しをして、冷蔵庫で2〜3時間冷やす。これを薄切りにして、アミの塩辛をまぶして食べる。我が家では特製のニンニクだれでやる。アミの塩辛は刺身や冷や奴につけて食べてもうまいよ。

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