裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

7日

日曜日

父親がわり

 朝7時、ホテルの地下食堂でバイキング式朝食。これがまた実に悲惨というか情けない、人生に絶望したくなるような食事。ジュースがフレッシュジュースではなく、コンクジュース(今どきコンクジュースなんてあったのか)。せめて水を、と冷水のジャーからコップについだら、これがまた金属臭のするひどい水だった。
 10時に4人、ホテルを出て、親父のズボンのサスペンダーを地下街で買い、家へ。式の私の衣装、親父が四十数年前に作ったモーニングを着てみたらピッタリと合うので、それにする。車椅子に乗せ、タクシーに乗っけて後楽園ホテルへ。からさわ薬局時代の薬剤師たちや、メーカーの連中、つきあいのあった病院のドクターたちに挨拶する。いまだ“俊ちゃん”などと呼ばれるのはやはり居心地の悪いものである。
 3時、式開始。ホテル内の神前で行うのだが、お供えものにパイナップルが上がっているのがどうもへんてこである。神主の祝詞がまた、“明るくさわやかな家庭を築き”などと、どうにも文言に威厳がない。おまけに指輪の交換式まであるのに仰天した。まあ、神前結婚式というもの自体、キリスト教会のサルマネなんだから仕方ないが、も少し品格というものを演出した方がよろしい。巫女さんはアルバイトだろうが二人とも美人だった。彼女たちが椅子の後ろの操作板で照明、音楽、ビデオカメラ、全てをコントロールしている。親父、必死で首をあげ、開きかける口を閉じ、威厳を正そうとしている。ちょっと感動。
 4時過ぎ、披露宴。親父が疲れたからこのまま帰る、と控室で言い出し、母がそれではダメ、と、一喝。もはや保護者(笑)。ヨレヨレの親父を車椅子に乗せ、一回り、場内を挨拶に回らせる。満場、盛大な拍手。潮健児のときを思い出すなあ。
 なをき夫婦が家まで親父を送る。式はその後、正常に進行。親父の名代で母と会場をビール注いで回り、クタクタになる。最後、親父に代わって出席の人々に御礼のシメの挨拶をする。こういうのはまあ、私もシロウトではないですから。あとで、昔店にいた番頭さんたちなんかが“立派になって・・・・・・”と泣きながら手を握ってきた。 帰り、新郎新婦と並んで列席者に挨拶するが、みな、新郎新婦より親父の方に感激したという。母、親父が会長を務めるJPS製薬の来年の全国集会に、親父を回復させて出席させる、とそこの社長に約束していた。
「あれは私の“作品”ですから」
 うーむ、すごい。
 家に帰って、なをき夫婦と四人、母の作ったヤキソバとカキアゲでビールで乾杯。ホテルの料理の百倍うまい。それにしても疲れた。母の超人的体力に呆れる。親父が帰りたがったのも無理はない。ホテルに戻り、ヘタりこむように寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa