裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

月曜日

童貞ハリー

マグナム並なんだけどなあ。

※原稿一件手直し ミリオン打ち合わせ 東大講義

朝9時半起床。
寝汗たくさん。
ゆうべのマッサージ、揉み返しがないのがさすが。

10時近くに朝食。
仙台より電話あり。
午前中、某編集プロダクションより原稿一個所、
手直し依頼。速攻で直して送る。

懸案事項のための連絡。
「融通をきかせる」
ということの大切さを思うと同時に、映画『白い巨塔』での
小沢栄太郎演ずる鵜飼医学部長の
「まあ、僕みたいに融通無碍になりすぎてくれても困るが」
というセリフを自分自身に重ね合わせてしまう。

ビンセント・プライス主演『バンシーの叫び』(1970)、
ハマー・プロダクション制作の最後の映画になってしまった
クリストファー・リー、リチャード・ウィドマーク、ナスターシャ・
キンスキー出演の『悪魔の性キャサリン』(1976)の脚本を
書いたクリストファー・ウィッキング、13日に死去。65歳。
シルビア・クリステルの『チャタレイ夫人の恋人』にも脚本チーム
の一員として参加していることでわかるように、70年代、
ホラー映画にセックス要素を大胆に取り入れた先駆者の一人だが、
そのために、60年代ホラーがその裏側に秘かに隠していた
性の暗喩が消え、何か作品が薄っぺらくなってしまった感がある。
とはいえ、『悪魔の性キャサリン』は当時17歳のナスターシャの
美しさと共に、共演陣(上記の他にオナー・ブラックマン、
デンホルム・エリオットなど)の豪華さで忘れ難い一本である。
『ローズマリーの赤ちゃん』『エクソシスト』に次ぐオカルト巨篇!
とか予告編では謳っていたのだが……。

昼は弁当、すきやき風の牛肉煮込み。
食べて、河崎実・中野貴雄との鼎談原稿に筆を入れる。
面白くて面白くて、ああ、こういう話で稼げれば天国だよなあと
思う。桜井さんから電話、本日15分ほど遅れるとのこと。

手入れに時間かけすぎ、出が遅れる。
新宿まで急ぎ、珈琲西武で打ち合わせ、ミリオン出版と。
もっとも15分で終った。
時間が余ったのでまた自室に戻り、鼎談手入れ続き。

4時15分、家を出て丸ノ内線で本郷三丁目。
早くつきすぎたので、空いた小腹を養おうと、駅の近くの蕎麦屋
をさがす。いかにも本郷にありそうな、昭和の蕎麦屋。
蕎麦に蕎麦の味がほとんどせず、ツユにカツブシの味がほとんど
ないという、いかにも学生街・ビジネス街の蕎麦屋。

本三の駅まで戻り、中野稔氏を待つ。
やがておいでになり(杖をついておられたが相変わらずのお元気)、
Y先生、オノと共に、Y先生の研究室まで。
ほどなく桜井氏も見える。
Y先生が迎えに行ったのだが、Y先生は一見すると典型的な
オタクなので、桜井氏、教室に行くまで、彼を私のスタッフだと
思っていたとのこと。気の毒だが笑う。

しばらく歩いて東大構内、前二回も行った教室で講義。
昭和を代表する映像コンテンツの成立過程を若い世代に講義する
という内容。中野さんに、オックスベリー社のオプチカルプリンター
購入のところから説き起こしてもらい、TBSがその購入を
肩代わりした背景にフランキー堺主演の1958年のドラマ『私は
貝になりたい』が西ドイツに売れたので、良質のテレビドラマを
制作すれば海外展開が可能である、という判断をTBSがした
ことがあった、と説明をしていただく。

そして、桜井さんには、その制作された第1作のドラマ『ウルトラQ』
に参加されたときのエピソードから、カラー作品『ウルトラマン』
の撮影の苦労、イデ隊員役が石川進からいきなり二瓶正也に変更
になった驚きなどを語ってもらう。

脱線また脱線のトークも面白いが今日は講義のため、
なるたけ交通整理をしてウルトラに絞った話を。
それでも、中野さんの
「今の人(テレビ製作スタッフ)たちは、性能がいい機器に
慣れているから、“現場の実物の色と、テレビで放映される色に
差がある”ということを理解していない」
と、今人気の若手歌手兼俳優の名前をあげて、
「あの人の唇をみてると、死人の唇みたいでしょ? 現場では
気づかないんだ。撮影のときにちょっと、何か塗ってやればいいのに」
などと、若い世代のアンテナに見事はまる話題の提供は見事。
お二人の話に何度も笑いが湧く。

モデレーターの仕事の任は果たした、と認識したので、
最後に昭和41年という時代の世相と、ウルトラシリーズという
ものの人気の関連性を話して、まとめにする。
講義内容は後で本にまとめるかもしれないとY先生、おっしゃって
いた。

終って、講義を聞いてくれた学生さんたちと少し話す。
もう少しきちんと説明すればよかったと思うものもあるが時間と場所
が限定されている。
出版社や放送局にすでに勤めている方々から名刺交換も求められる。

打ち上げに、本郷で有名な東大生御用達のちゃんこ『浅瀬川』に。
鶏ガラ出汁のきいたちゃんこ鍋と、自家製薩摩揚げ。
談論風発、講義を聴講していた特撮ファンクラブGのOEくん
(OIくんは今日の講義を明日と間違えていたらしく来られなかった)
が“こっちの話の方がためになりますね”と。

途中で中野さんお帰りになる。Y先生のお弟子さんが
駅までお送りするが、その道々で伺った話が大変為になった
とのこと。その後、看板まで桜井さんを囲んで
12話の話、怪奇大作戦の話などでワイワイとオタ的に盛り上がる。
10時過ぎ、お開き。学生たちにおごっていただく。
電車の中で、帰りの道が同じ学生二人とオノと、また少し話す。
中野で別れ、タクシーで帰宅。
ビールの酔いだけでは眠れないので、ホッピー少し。
某社の担当が不況のため会社をやめるとの報、ちょっと愕然。
本人が明るく言っているのでまだ救われるが。

※写真は『悪魔の性キャサリン』

Copyright 2006 Shunichi Karasawa