裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

水曜日

粘着20名様にプレゼント

 ストーキンググッズセットを差し上げます。朝5時半ころ、猫のえづく音で目が覚める。ゴボゴボ、カーッという感じの盛大なものだったので、何かに当たったか、と驚き、起き出して音のした部屋の方へ行って見るが、吐いた跡も何もなし。夢で聞いた音か? 目が覚めてしまったので、仕方なくリンネ『神罰』(法政大学出版局・叢書ウニベルシタス)読む。あの博物学者のリンネが息子に宛てて書き残した、因果応報の実例集。短い走り書きのメモのようなものがいくつも並べられているので、まる で因果ばなしトリビア集みたいな感じで面白い。
「N・N夫人がひとりの女中を雇っていた。女中に磁器製の皿を階上に運ぶように命じた。女中は階段で転んで皿を真っ二つに割ってしまう。夫人は逆上し、女中をさんざん殴打したあげく、給料を取り上げて新しい皿を買う。その日の夕方、同じ階段を下りようとした夫人が、つまずいて足を折る」
「(殺人の罪で裁判にかかっている罪人がいたが)ひとりの老将校が、この罪人の手相をみて、“あなたは処刑されて死ぬことはない”と断言する。男は処刑の通告が届 く二日前に、獄死する」
 こんな話がずらりと並んでいる。中には、仕事(ウプサラ大学教授職)に対しての グチもある。
「私の同僚の多くは、講義を休講にして、半分の時間で出世し、毎日パーティに出席して楽しくやっていた(たとえばフロンディン教授)。多くの同僚が倍の報酬を得ていた。わたしは昼も夜も身体を酷使し、休息もとらずに読み、書き、試験をした。わたしには、それ以外に何があったろう。名声とは他の人びとによってかき消される風である。見よ、わたしの仕事を盗んで、剽窃者たちが自分のものにしてしまう」
 ……この本のことは、夏のと学会同人誌に書く予定。

 食事のベルが鳴る。しまった、つい知らぬ間に寝過ごして、入浴をし損ねたか、と思い、時間を見るにまだ6時半。さっきの猫のえづきではないが、また寝ぼけたかと思い、K子に訊くと、ベルなど聞こえなかったという。おかしいと首をひねりながらまた横になると、やはりベルが鳴る。行ってみると、母が普段通り弁当を作っているので、まだ6時半だ、と言うと、アラ、間違えちゃったわ、と笑う。朝、テレビをつける習慣がない人なので、朝が早い季節になると、時間を一旦間違えて起きると、おかしいなと気づくキッカケがないのである。部屋にもどり、もう三十分寝て、起き出 して入浴。7時半、改めて朝食。黒豆とキャベツ炒め。

 今日は仕事場に早く着きたかったのでタクシーで。もっとも、時間的には10分くらいしか早まらない。コミビア一本書いて送り、東京大会のポスターについてMLに連絡。11時半に早めの弁当。姫竹の卵とじ。雑用いろいろすませ、12時10分に家ヲ出ル。JRで秋葉原まで。電波会館2Fの喫茶店『古炉奈』。1時の待ち合わせで1時5分に着くが、対談相手の岡田斗司夫さんも、対談コーディネートの『創』編集部の人も、誰もいない。店員さん(ここの店員さんは何故かみな、いい歳のくせに化粧が濃かったり奇妙な髪型をしているおばさんたちである)に“秋葉原って古炉奈と言えばここだけですよね?”と訊くが、そうだとの答え。しばらく待つうちに、編集長のS田さんがやっと来るのでホッとする。訊いたら、奥の個室が対談場所なのだそうだ。行くと、岡田さんはまだだったが、編集のKさん、いる。人待ちをしているのがわかっているんだから店員のおばさんも、“個室の方ですか”とか確認すればいいのに。

 岡田さんもすぐ到着、対談。オタクの先端と言われるアキバで、ロートルオタク二人が最近のサブカル事情について語るという対談。アキバは本当に“趣都”か、という話から、なぜ女オタクはアキバに集わないか、とか、海外から見たアキバ像などの話題を語る。相変わらず岡田さんハイテンションで、面白い。1時間ほど話して、写真撮影に出る。台風の接近とかで、雨降りだしている。岡田さんがめざとく200円の傘を見つけたので買う。200円という値段でビニールではなくちゃんと布張り、 おまけに自動開閉。

 写真撮影はメイド喫茶ととらのあな。メイド喫茶は『キュア・メイド・カフェ』。メイド長のメガネっ娘お嬢さんに、岡田さんいろいろ質問。レジ前にみずしな孝之さんのトークライブ案内があった。とらのあなでは各フロアで、同人誌だのフィギュアだのを眺めているところ、という、まあおざなりなところを。やはり二人とも、同人誌買ってしまう。ここらへんは本能みたいなものか。秋葉原店の店長さんなのか広報さんなのか、“ご著書はいつも読んでます!”と。

 撮影終わり、編集のKさん、カメラマンさんと別れて、雨の中、タクシーに岡田さんと同乗。これから岡田さん贔屓の足立区鹿浜の焼肉屋『スタミナ苑』に行こうという算段。タクシーの運転手さんに“スタミナ苑”と言うと、“アア、あのテレビなんかでよくやっている有名なところでしょ?”と言う。さすが、小渕首相もよく並んだという店である。しかも、カーナビで検索すると、ちゃんとスタミナ苑、出た。45分ほど、しげくなった雨足の中をタクシー飛ばす。中で岡田さんと、恋愛論などを話 す。あと、某大学関係でいま、人をさがしているという話とか。

 やがて到着したスタミナ苑、いつも最低30分は行列が出来るとのことだが、今日は時間が早く、また雨のため、われわれが一着。もっとも、それでも開店まで30分は待つ。このあいだの八起にも来たゲテ肉好きお姉ちゃんMさんも加わり、雑談しながら、幻冬舎のN田さんとその連れを待つ。店員のお兄ィちゃんが、“全員揃わないと入れないことになってますので”とクギを刺す。K子はこういう店はダメか。そのN田さんたち、なかなか来ない。岡田さんがイラついて何度も電話をかけるが、どうもちょっと道に迷ったらしい。実際、迷っても仕方ないくらい、周辺に目印になるよ うなものが何もない。

 開店まであと1分、後から並んだグループに先に入られるか、というギリギリで、N田さんと、連れの編集者さん来て、無事一番で入れる。いかにも足立区という感じの、昭和が残っている店内。小渕さんの色紙“知味停車”と写真、それに、その縁なのだろう、娘の小渕“ぎーちょー……”優子のポスターが貼ってある。奥の座敷席に陣取ったのだが、後から入ってきたグループが、何故かこっちの方をのぞいてから席につく。N田さん、“そりゃ、30分ずっと岡田さんと唐沢さんのトークを聞いてい れば、誰だこいつらは、になりますよ”と。

 メニュー選定はすでに3回、この店で並んでいる岡田さんにまかせる。ホルモン盛り合わせに切り落とし、カルビ、ロース、タン塩、レバ、グリーンサラダ。豚足を追加したが、ゲテ彼女がすごく嬉しそうな顔をした。岡田さんやN田さんと来ると、彼らはこういうものは絶対ダメなのだそうな。N田さんのツレも、初めてというので少 し食べさせてみるが、やはりダメ。“クラゲみたい”なのだそうだ。

 まず来たホルモン盛り合わせ、ギアラ、ハツ、コブクロ、シロモツなどだが、よく味が染みこむようにだろう、一切れをかなり小さめに切って揉んである。これが非常に旨い。それから、レバもやはり小さめの切れで、焼くとすぐに中の血が玉になって吹き出てくるような感じ。これもまことに味わい深い。ロースやカルビはそれに比べて切れが薄いが大きく、箸で千切れるほど。これもなかなかだが、やはりこの店はホルモン系、のような気がした。全員絶賛のグリーンサラダは、レタスとカイワレのサラダに、ノリが千切って混ぜ込んであり、ドレッシングに、韓国海苔の風味が混じって、これは、という味。いろんな人物の月旦しつつ焼肉食うのはいい感じ。最後に、テグタンが出る。これが、そこらのテグタンとは全然違うシロモノで、すじ肉のコンドロイチン分のドロドロに味付けしてご飯を和えました、という感じのもの。すでにここに到るまでにお腹がいっぱいになっていた(なにしろ台風の気圧の乱れで体調がワヤクチャ)ので、なんとかご飯だけ浚うだけで精一杯だったのが残念。今度はこの テグタンを食べることを目標に来てみよう。

 6時に店を出(N田さん驕ってくれた)、Mさんのお勧めの西新井の喫茶店まで、またタクシー。これもまた、何の変哲もない道にある喫茶店であるが、なぜお勧めかというと、中がやたらだだっぴろくて、しかも妙に豪華な装飾なのである。昔のと学会のノリの二次会などには最適だろう。ここでまたしばらく雑談。中野貴雄監督が警察に呼ばれたときの話など。仕事でこれからまた吉祥寺に戻らないといけない岡田さ んと、東武鉄道(半蔵門線連絡)で帰る。

 渋谷の仕事場着、生ビール一杯でもう全身ダルくて、しばらく横になって息をついていた。起きあがって原稿まとめ少し、頭がクラクラしていて(気圧)全然ダメ。9時半、タクシーで参宮橋『クリクリ』。K子、パイデザ夫妻、QPハニー氏の会食に参加。と学会大会パンフの資料を平塚くんに渡す。私はワインだけで、他の人たちがルンピア、イカ巻き飯、鶏半身、タルタルステーキなどを食べるのを眺めている(ときどき、K子がひとくちほどめぐんでくれたのをサカナに)。タルタルにどういう調味料を混ぜるのか、とケンに訊いたら、やたら数が多い。黒胡椒、青胡椒、タマネギに卵黄……と並べる。青胡椒と醤油が隠し味らしい。マスタードが入っている、と私とめぐみさんは断言していたが、マスタードは入っていないとのこと。ううむ。私以外のメンバーは、さらにクスクスまで追加して食べていた。話題は友里征耶の本、それと母の作る弁当の話。パイデザ夫妻、今日の弁当に、昨日の夜も出た北海道風のつ みれ汁がついてきたのに歓声を上げたとか。

 なんだかんだ食べて話して、もう12時を回る。店内で午前様は珍しい。QPさんはまだ小田急の終電に間に合うとのことで駅へ。同じ新中野の住人のパイデザと、タクシーで帰宅。猫がやたらナーゴナーゴと嬉しそうに鳴く。夜寝る前に缶詰のエサを与える(昼間は乾きエサ)のだが、それが嬉しくて鳴き回るらしい。人間も猫も、うまい食い物の前では歓声を上げるか。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa