裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

18日

火曜日

加護と幸兵衛

「おまえ、いつまでも元モーニング娘。で売れると思ったら大間違いだぞ」。朝、夢二ツ。ひとつは日本では地味な女子高生が、香港に行くと少女クンフーアクションのスターとしてファンに追いかけられる、二つの顔を持つという話。アクションシーンでビシッと蹴りを入れるところで、自分も筋肉を硬直させたのだろう、いきなり足が攣って目を覚ました。こういう場合、まず足が攣り、そこから上記のような内容を、フィルム逆回転で夢に見るのだ、と、なにかの本で読んだことがあるが。それでとにかく目を覚ましてしまい、もう一度寝直して見たのは、リチャード・レスターの映画『ローヤル・フラッシュ』のストーリィを、登場人物も映画そのままのマルコム・マクドウェルとオリバー・リードで、映画の話を中途半端になぞったもの。

 朝食、またナミ子姉と共に。黒豆サラダとスープ。果物はバナナ。K子がテレビの星占いを熱心に見ているところから占い談義となる。当たった例として、去年の大晦日にK子が飛行機の中の機内誌で見た四柱推命での、2004年に“不動産を買う”というヤツ。少なくともその時点で、母はともかく、私ら夫婦がマンションを購入することなど、思いもよらないことではあった。するとナミ子姉、毎年暮れに送られてくる高島易断の暦に“離婚”と来年の運勢が書かれており、なにかしらこれと呆れていたら、ホントに離婚することになってしまった、というような話を。

 小沢一郎民主党代表就任辞退に関しては、やく・みつるが産経新聞で私と同じ見解(なりたくなかったのであれにかこつけた)を述べている。スーパーモーニングではこの件のキーワードを“刺し違え”として、フリップを作って大きく映し出したが、“差し違え”と誤記。大相撲の最中なので、ワープロが前に変換した“差し違え”を記憶していたのだろうが。それにしても、刺し違えをねらうなら、もっと効果的にやらねば意味がない。すでに民主党は役職辞任では自民の福田に先を越されているのだから、やるならその上をいく議員辞職くらいブチ上げねば、なんのアピール力もない行為だ。まったく、現代の民主政治というものは、一票を代償に国民の前で選良たちが演じてみせるパフォーマンス劇である(そうならざるを得ない)ということを、この党の人々は誰も理解していない。希代のパフォーマーにして幸運児・小泉の高笑い が聞こえてきそうな雰囲気である。

 8時15分、家を出てバス停。ちょっとぼんやり考え事などをしていたら、ちょうど25分にバスが目の前に来たので、乗り込む。しばらく窓外をぼんやり眺めていると、いつもは幡ヶ谷のあたりから高速下の通りに出るのだが、そのひとつ手前の道を曲がっていく。アレレ、と思ってよく行き先を確認したら、新宿駅西口行きだった。間違えて乗ってしまった。自分の迂闊さに呆れる。とはいえ、トンデモないところへ連れていかれるわけではないので、日頃見慣れない周囲の景色を楽しんだ。幡ヶ谷や初台というところは、こんな都心に近いのに、ずいぶんと鄙びた感じのするところだ なあ、と思う。昭和の光景がまだそのまま残っている。

 隣の席のお姉さんが、熱心に新聞を読んでいるが、これが聖教新聞。四コマがチラリと見えたが、『あおぞら家族』というやつ。ああ、『バリバリくん』の後に連載が始まったヤツか、と、見るでもなく見ていると、作者名が芝しってる。昔、『テレビマガジン』に描いていた人である。確か森田拳次さんあたりのアシスタント出身ではなかったか。幼年雑誌中心に描いていた人。なるほど、と(何がなるほどだか知らな いが)思う。

 途中で下車してタクシーで仕事場へ。日記つけ、東京大会関係の雑事で太田出版はじめ事務局等とメールやりとり。週刊ポストから上がってきたゲラ原稿に手を入れ、ギャグをひとつ付け足す。字数を合わせるのにかなり苦労。送ったら、字数調整の件で編集さんから二回も確認の電話があった。あと電話、『創』などから。弁当、お菜は豚肉味噌漬け。結構々々。

 昨日、サウナの後の休息室のテレビで見ていたBBCのニュースでの、イラク統治評議会議長暗殺、日本の各マスコミでの取り上げ方の小ささに驚く。これ、イラクのテロリストたちのいらだち(なぜ自分たちと共闘せずにアメリカに追従するのか)の現れであり、これまで頻繁に繰り返されてきたテロに、政局を変化させる効果が出ていない、ということである。BBCではイラク国民や議会員はじめ、ヨーロッパ各国の首脳たちのテロリスト非難の声を大きく取り上げていた。日本のマスコミは、どうもテロリストの評判を落とすニュースは小さく扱う傾向があるな。

 ついこのあいだ、『CASSHERN』で80才とは思えぬ姿を見せていた三橋達也氏、死去の報。あのときも、演技(セリフ回しとか)が若い頃とほとんど変わっていなかったのに、いい意味でも悪い意味でも驚いたものだが、この人の演技には、当時の役者さんの中でも際だった、“日常性の無さ”というものがあった。天本英世のような“非日常性”ではない。あくまで“日常性の無さ”なのである。日本の演劇人というのがどうしても日常性をべったりと演技にも、セリフにもまといつかせている中で、その、日常からの遊離は貴重な財産だったかも知れない。なればこそ、海外での彼の評価は非常に高く、当時の日本の俳優の中では三船敏郎に次ぐ国際スターの地位を確保し、『トラ! トラ! トラ!』やフランク・シナトラの『勇者のみ』などに出演出来たのだろう。ロシアとの合作の『甦れ魔女』なんて(魔女といってもオカルトでなく、バレーボールの“東洋の魔女”のこと)映画もあったし、ああ、それから『国際秘密警察・鍵の鍵』をウディ・アレンが徹底改作した『いったいどったの?タイガー・リリー』なんて珍作も、一応は海外での公開作品である。上記『トラ! トラ! トラ!』での、日常性皆無の三橋達也と、どっぷり日常性につかった田村高廣の演技合戦は、見るたびに笑い出してしまう奇場面であった。ウディ・アレンのは輸入ビデオ屋でビデオを見つけて、喜びいさんで買って見ては見たものの、こちらの乏しい英語力ではとてもギャグまで理解できず悔しい思いをしたものだ。この作品の 字幕版、どこかで出してくれないか。

 7時半、タクシーで帰宅。今日はこの間も来たK子のアシスタントのしださんと、その学校時代の友人という人がお客さんで、その他、S山さんとI矢くんが加わる食事会。しださんとその友人、体型も性格も、まるでアニメのコンビキャラのように正反対。実に絵になる。白身魚を春巻の皮で巻いて揚げたフィレ・オ・フィッシュ、アブラゲと胡瓜のアーモンドペースト和え、鮭のあらとタケノコ、ワラビ、薩摩揚げの田舎煮など。会話がすさまじく激しく飛び交い、間々にはさまるのが大変なほど。疲れていたせいか気圧のせいか、あるいは単に飲み過ぎなのか、酒が回るのが早いこと 早いこと。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa