裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

13日

木曜日

紀文はもう戦争

 練り物業界の昨今の競争激化に、わが社も老舗の看板に寄りかからず、参戦していく所存であります。朝、珍しく6時まで眼を覚まさず熟睡。入浴、メールチェックなどして7時半、朝食。ミニトマトの赤玉と黄玉のサラダ、キャベツスープにキノコ炒 め。キノコ炒めは酒の肴みたいである。

 雨はまだ降らないが湿気すさまじく、水の中を泳ぐような感じ。バスで通勤するがムンムンとしていて、皮膚がジトッと汗ばむ。極めて不快ではあるが、こういう季節が動いていくことを感じられる感覚は、嫌いではない。いつもバスで出会うアパレルの兄ちゃん二人の会話を漏れ聞く。黒スーツとグレースーツの二人なのだが、黒の方が、昨晩、二軒めのカラオケボックスで、社を独立して自分の店を持ちたいと打ち明 け、先輩にまだ早いと説教されたという。以下、その先輩のコトバ。
「……要はオマエに投資してくれる人間がどれだけいるのか、というこっちゃ。自分で自分の実力にいくら自信と確信持っとっても、それは証明にならん。自分で自分見る目はどないしてもユルくなるもんや。それから、人のコトバも信用ならん。コトバはタダや、はげましなんてもんは無責任にいくらもかけられる。ただ、金を出そか、ちゅうんはこれは向こうもホンキやで。第三者で、オマエにひとつ、金を賭けてみよか、ちゅう人間がどれだけ出てくるかや。第三者の金を自己評価基準にせえ」
 聞いていて、いやあ、まだこういう常識をきちんとことわけて若者に言ってくれる大人がいるんだな、と頼もしく思った。とはいえ、昔ならこういう相談や意見は赤提灯でなされたもの。今はカラオケボックス(しかもハシゴ)でされるんだねえ。

 仕事場着。ケイズファクトリー『漢字天国』ゲラチェック、昨日中というのを見逃していたのであわててやって送る。それから、『フィギュア王』もGW中に送ってもらっていたゲラ、最終校了日にあわてて送る。我ながら困ったもん。母から、ハナマキというものは通販で買えないか、と電話。ネットで調べてみると、横浜中華街の店 で通販やっているところがあったので、すぐ注文。早めの弁当使う。

 12時45分、外出。郵便局でモノマガジンに図版ブツ郵送。それから区役所内のみずほ銀行で、注文したCDの代金を振込み。1時、元・ルノアールの貸し会議室へ行き、扶桑社Yさんと『トンデモ本女の世界』『愛のトンデモ本』文庫化の件の打ち合わせ。ここはかなり前から使っている会議室だが、1号室というのは初めて。入ると、学校の教室のように机と椅子、前に教壇とホワイトボードがある。植木不等式さんすでに来ている。文庫ゲラ手渡され、あと『トンデモ本男の世界』の書き下ろしのことで打ち合わせ。ちょうど、会誌用と思っていた原稿が、この本の内容にピッタリ なことに気がつき、急遽そっちに廻すことにする。

 談之助さんも同席の予定だったが、なかなか来ない。K子に電話し、彼の携帯の電話番号を聞いてかけてみたら、まったく日をカン違いして、別な仕事に入っていることが判明した。まあ、ありがちなこと。打ち合わせ終わり、植木さんが軽く食事をしたいと言うので、チャーリーハウスとも思ったがすでに2時ギリギリ。思いついて、どうせ今日はわが家のカレーパーティなのでナンを買ってこいと言われていたのだった、と、サムラートへお連れする。チキンバターカレーがお勧めですよ、と。私も、マトンカレーをお相伴するが、弁当の後なので、半分ほど残す。植木さんがその分も片づけてくれた。パキスタンに出張という植木さんとインドばなしいろいろ。ナンを焼いているインド人(パキスタン人かも知れないが)が、インドの鼻歌を歌っていた のがなかなか。

 植木さんと別れ、東急ハンズでいろいろ買い物。帰宅して仕事。某DVD販売会社から、『アポロは月へ行っていない説の反駁ビデオ』の監修依頼。光栄ではあるが、こういう仕事はと学会内に私より適任の人がいるので、なんなら“と学会監修”という肩書きくらいはとって差し上げますが、と返答。いろいろとお目をとめてくれるのは有り難い。3時、タントンマッサージ。坊主頭の若い、いかにも痛く揉んでくれそうな先生がつき、マゾヒスティックな期待にゾクゾクしていると、それに違わず、悲鳴をあげるほどにグイグイとツボを押してくれる。全身クタクタとなる。

 6時、時間割で二見書房Fくんと打ち合わせ、これも延び延びになっている『日本的ヒーロー論』の件。スケジュールと章立てのみ、急いで立てて送ることを約す。しかし、こういう約束のみしている本があと何冊あるか。雑談、多々。Fくん、やっと『ボウリング・フォー・コロンバイン』観たそうだが、やはりマスコミが持ち上げすぎ、と思ったそうな。例の『華氏9・11』の配給問題について話す。ムーア側は、あの“自作自演説”は根も葉もない、と反論している。それを伝えるサイトももちろ ん見たけれど、
http://hiddennews.cocolog-nifty.com/gloomynews/2004/05/post_4.html
 ↑、どうもスッキリした反論ではない。要は、ディズニーはかなり早いうちから配給しないと言っていたが、傘下で直接製作を担当していたミラマックス社が、大丈夫だとムーアに言い続けていた、ということである。そもそもディズニーが保守系会社の最たるところであることはおよそハリウッド人には隠れもない事実であって、そこにトラブルが生じる可能性を見切っていなかったとすれば、ムーアの業界人としての感覚が問われるところだ。話題作りのための自作自演の疑惑は依然残るし、仮にムーアの言うことが正しいとしても、ディズニーの元でこういう映画を製作しようとするという挑発行為が、反発を招くのはアタリマエであって、それで怒りまくるというのは幼稚なメンタリティであろう(などというと必ずまた騒ぐ連中がいるので言っておくが、ムーアの伝えようとしているメッセージがいいとか悪いとか言っているのではない。あくまでも、そのメッセージを伝える姿勢のことを言っているのである)。しかしまあ、なんだかんだ言ってムーアはこれを宣伝にちゃっかりと利用している。自分の最終目標がナニか、をちゃんと認識しているのだ。日本人のように、いったん正義というコトバを口にしたとたん、損得という考え方がどこかへ言ってしまう(と、いうか、正義の概念に損得を重ねることを不浄ととる)ような人種とは、したたかさ が違うのである。

『トリビアの泉』の話も出る。あの番組が最近ウスさも極まっているのは、視聴者の大部分(すでに7割以上?)が小学生だからである。小学生が、翌日の学校で自慢する番組、なのだ。したがって、“○○は……××である”の“○○は……”には、小学生に説明ナシでわかるものを入れねばならない。以前、と学会のメンバーにネタ出し協力をお願いしたことがあったが、まずほとんどのネタが濃すぎて使えないものであった。ゼロ戦を知らない、アインシュタインを知らない、『坊ちゃん』ですら読んだことがない、という連中相手に雑学番組を作れと言われているのである。自分が直 接ネタを作る立場にいなくて本当によかったという感じですらある。

 7時19分の中野行きバスで帰宅。ちょうど談之助夫妻がマンションの入り口についたところ。すでにパイデザ夫妻、と学会I矢氏、S井氏、S山氏も来て、われわれ含めて9人の大人数。パイデザが母の誕生祝いにとプレゼントしてくれたシャンパンで乾杯の後、S山氏の台湾みやげの紹興酒、I矢氏のワインをあけて、今日はカレーパーティ。ハルサメのサラダ、コーンのバター煮、ひたし豆などをオードブルに、チキン、サモサ風揚げ餃子、マッシュポテトと、ポークカレー。スープの出汁がまことに濃厚で、ナンにもライスにもあい、結構であった。雑談がまことににぎやか、上の階の住人から苦情がこないか心配になるほど。イラクのアメリカ人殺害ビデオ、あの首が簡単に切れすぎるのは、すでにあの捕虜はあの時点でクスリを打たれていたか、あるいは死んでいたのではないか、動脈を切って血が吹き出ないのはおかしい、などという意見がメシ食いながらどんどん出てくるのがと学会である。

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