裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

19日

月曜日

Yの秀樹

 え? 真犯人がこいつ? カンゲキ! 朝、7時半起床。雨空である。朝食はシーフードにプチトマト。食後、雨、さらに強くなる。日記つける。『レコレコ』のことを書いている最中にレコレコ編集部から電話あり。打ち合わせを設定。10時半、雨の中を外出。このときは少し小ぶりになっていた。

 外出先は東急ハンズである。おとつい、幸永で飲んで、帰ってみたらカギをどこかに落としてきていた。K子のを借りてキーコピーしに行く。開店まぎわで空いているので10分で出来る。その間に他の売場を回り、新しいキーホルダーと、この夏の暑さで汗を吸い、ボロボロになった時計の替えバンドを買う。帰宅して、時計のバンドをつけ替える。考えてみれば、二十年ぶりくらいの作業だ。

 メールやりとり。講談社Yくんに、好美のぼる本のタイトル案を5つ6つ考えて、これもメール。雨はやんではまた降って、という感じ。サプリメントに気をつかっているので、以前のようにダレてダレて、という感じはないが、やはりどこかテンションが上がらぬ感じ。少し横になって資料本など読んで勉強。ウトウトしたりする。ロフトの斎藤さんから電話。9月後半に空いた日があるのでイベントやらないか、とい う件。

 今日から盆休みもあけて日常が戻ってきているわけだが、フリーの身はそういう感覚まるでなく、ただノベタラと日が過ぎる。メリハリがないと言えば言えるが、休暇開けの“ああ、今日からまた仕事か”という失望感のないところがいい。学生のころはとにかく、学校へ行くのが嫌いで嫌いで(別に引きこもりだったわけでもなく、勉強もそれなりに出来た子だったのだから嫌いになる理由もさしてないのだが)、夏休みも盆が過ぎるともう終わりになるのがイヤでたまらず、鬱状態になったものであった。お盆の三日間、家のすぐ脇の十字路を使って『こども盆踊り大会』というのが行われていたのだが、この盆踊り唄というのが、恐ろしい大音量で、ギンギンに割れた音がスピーカーからわが家を直撃し、それが一晩じゅうえんえんリフレインされる。
“♪揃たそーろたよ、こどもがそーろーたー、揃て歌えば月が出る、心のどかに月が出る、それつーきが出る……シャンコシャンコシャンコシャシャンガシャン、手拍子揃えてシャシャンガシャン”という歌詞が、こちらの脳細胞をほとんどマヒせしめるまでに流れていたが、このメロディを聴きながら、“この曲が流れている間はまだ夏は終わらない……永遠にこれが流れ続かないかしら”と、本気で考えていた。あの頃の私の願望は一生夏休みで暮らしたい、というものだったが、今になって思えば、フリーのこの状態というのは、ずっと長い夏休みを過ごしているようなもので、願いがかなったと言えるのかもしれない。

 昼は参宮橋に出て道楽のノリラーメン。さらに新宿へ。買い物を少しして、ハッと気がついたが、今日は歯医者に行って歯石を取る予定の日だった。すっかり忘れていた。時間が空いてしまったので映画でも観るか、と『ぴあ』を調べるが、時間がうまく合わない。仕方なく、夕方まで読書とネット散策で無為に過ごす。まったく夏休みの延長である。

 6時、家を出て地下鉄都営新宿線、曙橋の井上デザイン事務所。講談社YくんとNくんすでに来ていて、好美本の装丁打ち合わせ。オビ文を寄せてもらう人選など、いろいろ案を出す。K子もやってきて、装丁イラストのことなどを井上くんと話す。角川書店のKくんが偶然来た。まったくここは知り合いばかり。三本義治くんの本の装丁も見せてもらう。オビは表1、背、表4とすっかり私の文案で埋めつくされている 感じ。これだけ活用されれば文句なし。

 Yくんに誘われて、みんなで『まさ吉』。なみきたかしの話などをしてワイワイ。井上くんが昔入っていたアパートの、上下左右の部屋がみんな問題住人で、しかも少し怪談じみたオチがつく話がおもしろい。彼にお願いごとちょっと。今日は珍しくイワシが入っていて、シソ揚げを賞味。あと、卵焼きに牛すじに焼鳥にもつ鍋、といつものコース。K子とYくんは例によってローカルな山口ネタで盛り上がっている。生ビールジョッキ2杯に日本酒をコップで何杯か。気圧のせいかヘンな酔い方をした。10時過ぎに、渋谷のわれわれ、恵比寿に家のあるYくん、高輪に住んでいるナワー(井上くんのところのアシスタントの子。以前の呼称はネリー。練馬に住んでいたからだが、高輪に引っ越したのでナワーに変更になった)ちゃんと、タクシー相乗りで帰る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa