裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

9日

金曜日

ジャビット参上! ジャビット恐喝!

 時事ネタ。犯人が65歳とかで、爺ネタ。エイズ防止キャンペーンコマーシャルに長島さんを出して“ゴム、してますか?”というのも昔、あった(あったって言われてもなあ)。8時起床。とにかくよく寝られる。熱帯夜の不眠ネタが新聞の四コマで頻見される時期に、寝られるだけでありがたい。麻黄附子湯のせいで昼、眠くならない分、体が正常にくたびれているのだと思われる。朝食、コロッケをトーストにはさんで。メロン、食べ尽くした。

 ナンビョーさんの旦那さんのところから、コミケのペーパーの印刷が届く。安く、いい仕上がりでうれしくなるが、これを折ってはさんで、という作業を考えると、その量にいささかウンザリ。1時にはビジネスキングS社長じきじきにコピーのトナーを交換に来てくれる(トナーインクを回転させながら前に送るシステムなので、ドリルのような溝が掘られている円錐形で、“ナゾータワー”みたいだと思った)。このトナー代で、作るコピー誌の売り上げはほとんどチャラなのがトホホである。ともあれ、これでコミケの準備は万端整った。今日からもう開催されているが、2ちゃんねるの特設コミケ板をのぞいてみたら“コミケにいくら持っていくか?”というスレッドがあって、スレ立て者が“自分は35万”と書き込んでいた。さすがに他の者が呆れて、あまりその後延びてはいなかったが、しかしみな、熱い。

 今日も何やかやで昼を食いそこね。暑くて昼はことに食う気にならないせいもあるかも知れぬ。とはいえ、腹は空く。新宿で雑用があったので、立ち食いのカレーですます。お盆前の混雑、凄まじ。タクシーの老年の運転手が、“盆てのは7月の13日(から15日)を言うんだ。戦後、東京に田舎っぺえが増えて、8月にずらしちまったんだ、ありゃ”と言う。そう言えば阿佐ヶ谷の七夕祭りも8月にやるね、と言ったら“ネ、そうでしょう? 東京が基準じゃもうなくなってるんだ。そのくせ、正月だけは全国どこでもきちんと1月にやりやがる”と何か憤懣やるかたない口調。

 帰宅、黙々とペーパー制作作業。かがみっぱなしでしゃがんでいたので、腰が痛くなる。伸びをして腰をとんとんと叩くのはまるきり老人の図である。一段落ついたところで、青林工藝舎から依頼のあった三本義治くんの単行本のオビ文、いろいろ考えていたやつをまとめて一気に書き上げてメール。折り返しに担当Sくんから電話で、いい文句です、と褒めてくれた。しばらく、三本くんと初めて出会った頃の想い出ばなしなどをする。もう9年も前になるのか、と指折り数えて驚く。へらちょんぺや正狩炎、元気いいぞう(田村真一郎)などがいた大恐慌劇団の受付として入ってきた、長髪にジーンズの上下、ギターを背負っているという70年代の忘れ物みたいな若い青年が三本くんだった。マンガを描いているといい、“ヤングサンデーに持ち込みに行ったら、編集者に「君はマンガを描くより大恐慌劇団で働きなさい」と言われたので来ました”と言った。描いている作品を見ると、確かにヤンサンでは無理だったろうが、非常にオモシロイ。預かって、旧ガロの私の担当だったYくんに見せると、最初パラパラと読んでいたのが次第に食い入るような読み方になり、しばし目を原稿に落としたままだったが、やや興奮した面もちで顔を上げ、“……面白いですねえ”と目を輝かせた。新しい才能を発見した編集者の目、というのを初めて実見した。

 その場で“すぐ載せます”と直決し、それから“やや、この人、青林堂の原稿用紙使っているじゃないですか。どこで手に入れたんだろう。それにしても、他社の原稿用紙に描いた原稿を小学館に持ち込むとは、大胆不敵な”と感心して(?)いた。後で本人に訊いたら、長井勝一さんのマンガ教室に通ったことがあり、そこで貰った原稿用紙が余っていたので使ったんです、とのことだった。とにかく、長井勝一の直系の教え子であり、当時、唐沢商会や内田春菊、とり・みきなど、外様の作家に力を入れていたガロに、ひさびさに登場した、“いかにもガロ”という作風の作家で、古くからのファンにも、若いファンにも絶大な支持を受け、本家本流として、あっという間に主要作家になってしまった。私はあまり、“後輩に追い越された”という経験のない人間なのだが(もともと執筆分野に競合するような後輩がいない)、三本義治は 数少ない、後から出てきて私を追い越していった後輩なのである。

 8時、幡ヶ谷チャイナハウス。コミケで上京してきた金成由美さんと食事。植木さんも呼んで。いろいろと世間話、くだらぬ話をしながら食事。チャイナハウスは同じ地下街にもう一店、支店が出た。おしゃれな点心店、という雰囲気である。このところずっと家での食事が続いていたので、ひさしぶりにバカ話しながらの酒と食事、いろいろ楽しく、アヒルの水掻きとバイ貝のピリ辛和え、揚げ豚肉の梅肉ソースなど、食事もうまく、ツイ紹興酒が進んでしまった。植木さんはここの料理人の人と予定していた中国旅行がダメになった、とかで、仕切り直しに一生懸命。K子は私の同人誌を“売れるわけないじゃない”と切り捨てて、少しヘコむ。金成さんをK子とホテルまで送って帰宅。今日は自分の出演する『芸術に恋して』の放映日だったが、すっか り忘れていた。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa