裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

24日

木曜日

月形シュンペーター

 景気循環じゃ、濡れていこう。朝8時起き。朝食、コーンスープ、モチ、バナナ。10時半に家を出て歯医者に行くが、休み。診察券を見たら、日を間違えていた。詮なく買い物して帰る。

 その時間から、改装工事の作業がまた入る。今度は前回のように部屋じゅうにビニールを張ることもなく、コピー機にボール紙をかけただけ。壁を壊す作業などは済んでいるのでホコリも出ない、ということなのだろうが、それでも壁の中の配管を切断したりする。火花がパチパチと散って、乾燥した古本を山と積んでいる身にとってはハラハラ。家じゅうのものにうっすらと白いホコリが積もる。

 K建設の作業員、チーフが春風亭小朝似、その下の若いのが茶髪で眉を細く剃った田中麗奈似(笑)、あとブラザー・コーン似の金髪もいる。ビル工事作業員というとどうしても、出稼ぎの農家の百姓というイメージで、実際に“これ持って上がんねばなんなかんべ”的な物言いのおじさんもいるのだが、よくみると実にもってさまざまなパターンのがいる。

 早川書房の原稿、フロッピーに入っているのを手直しして次々送っているうちに、どういう手違いか、フロッピーが急に読み取れなくなる。何もいじっていないのに、いきなり“このフロッピーは方式が違います”という表示が出てしまう。これってどうなっているのだ?

 どうにもならず、早川に電話、担当のAさんに、以前作った原稿起こしのゲラから初校作ってもらうように頼む。それに赤入れしていくしかない。

 昼は西武デパートで買ったますの寿司ですます。あまり食欲なし。ビデオマーケットからカード届いた。この日記読んですぐ、送付の手続きしてくれたらしい。感謝。これでまたバカビデオがたくさん買えます(トホホ)。3時、大和書房Iくん打ち合わせに来るが、ちょうど工事が撤収に入ったところなので、いつもの喫茶店で待ってもらう。ところが撤収が手間取り、一時間近くかかる。4時ちょっと前にあわてて駆け込む。打ち合わせソノモノは五分で済み、あとは業界冬ばなし。最近どうも不景気であるというようなことを言うと、ナニヲ言ッテイルンデスカ、と呆れられた。他のモノカキの経済状態たるや、とても食えていけるの生活できるのという状態ではないんだそうである。私の初版部数でかなり驚異的らしい。あら、売れてたのね、私。相対的だからうれしくもないが。北朝鮮では金持ち、てなもんだ。帰ってメール返答い くつかすます。『アイアン・ジャイアント』パンフが届いた。いよいよ4月15日公開。今や、日本のインテリをきどる(これはオタクも非オタクも)アニメファンに、この作品がどう批評されるかに私の興味は移ってしまっている。言っておくが、この作品はバカに向けて作っている。そのつもりで見るように。何にも考えず、友情とか、家族愛とか、犠牲精神とかに涙を流す、アメリカという国の構成単位たちに向けて、だ。これが日本で公開されることに私がこんなに騒ぐのは、いわば、アニメに対し頭のいいバカたちがいろいろ付与しすぎたアカをこの作品が少し掻き落としてくれることを希望してなのである。意味がなくてはモノを褒められないオリコウバカさんたちには私ゃ、本当に嫌気が最近、さしているのだよ。

 6時、新宿歌舞伎町。オタアミinロフトプラスワン二日目。昨日はそれでもまだ余裕があったが、今日は半の開店から続々と客が入る。“そんなに見たいか?”と、眠田直と顔を見合わせる。やはり、二日目の方が濃い話が聞けるだろうと思っているのだろう。常連メンバー、出版社の連中、それからこの日記見て初めて来ましたというファン、BWPの哭きの竜さん、修羅さんなど。岡田斗司夫、昼に足をくじいたとかでビッコ引きながらやってくる。仕事の話いろいろ。この上忙しくしてどうする、と思いながら、面白そうな話にはつい、引き込まれる。

 7時半、開演。珍しく、“基本的に初日と同じネタ”という約束に忠実に(イタすぎたネタはカットしたが)進む。ネタで受けが悪かったところは飛ばし、その分トークを濃くする。壇上の我々の方がお互いの話に笑い転げる。だいたい、どこで笑いがくるか分かっているということは実にやりやすい。古典落語やっている落語家の気持ちがわかる。岡田斗司夫、数年ぶりに躁状態とオタアミが合致したとのことで、もう飛ばすこと飛ばすこと。眠田さんのフォローも名人芸の域。私はアブナい話ばかり。岡田斗司夫のオハコ“収入主張反比例の法則”が出た。
「例えば開田裕治さん、貧乏だったころは今の怪獣映画とか世間一般に対する文句、いっぱい言ってたんですよ。ところが最近金が入るようになって、金沢にカニ食いにいけるくらいの身分になると、悪口なんか滅多に言わない、実にエエ人になる」
 これに対し、あやさんが会場から
「言ってても載らないのよー!」
 との声。なるほど、世間もまた、余裕ある人には善人のキャラクターを求めるのかも知れない。

 サクサク進んで、中野の前売も順調に売れ、11時閉演。嵐の後のようである。次のロフトは3月7日、睦月影郎さんの変態ナイトのゲスト。斎藤さんと、四月の企画を打ち合わせ。今日は打ち上げは台湾料理『青葉』。昨日とはうってかわってにぎやかで、三人の他、開田夫妻、FKJ氏、K子、談之助さん、ひえださん、岡田さんのファンの女の子二人、オタキングの松原2号くん。岡田さんは執筆ちゅうの恋愛論本の資料集めに、あやさんにいろいろ普通の神経の持主では聞けない質問いろいろ。それに普通の神経の持主では答えられない答えいろいろ(笑)。2時近くまで話し、岡田さんと眠田さんは女の子に連れられて2丁目のホモバー探検に出かけていった。私はバテて帰る。帰ったら出版社から苦情の留守録、9軒。みんな冬の時代で余裕がな いの?

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