裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

火曜日

イカだエビだカニだ、イカだエビだカニだ

 タイトルは“タケダタケダタケダ〜”で。朝8時半にロビー集合、市内の市場に行く。列が出来るという刺身屋で朝食としゃれこもうという算段。ところが、この市場が市場と思えないくらい朝がゆっくりで、9時にまだ商品を並べていない。食堂も全部12時くらいから。仕方ないので、近くの喫茶店でモーニングサービス。グル高橋逮捕の様子などを新聞で読む。コーヒーのうまい店だったので、それほど不満でもなし。

 10時チェックアウト、タクシーで泉鏡花記念館へ。鏡花ゆかりの品を並べている他、ビデオをいろいろ流している。永島敏行がイメージビデオに出演。鏡花とではイメージが全然合わないと思うが(なにせ『ガメラ2』)、なぜ永島? 鏡花は上京して尾崎紅葉の門番から始めたというところで、あやさんが“やっぱり弟子はこれくらいきびしく育てなきゃダメよ!”と言う(笑)。紅葉は最初、鏡花に“畠芋之介”というペンネームで書かせた。(バカ)と同じである。イジメみたいなものだが、人格をある程度否定されたところからでなければモノは学べない。芸ごとってみんなそんなもんだ。私の師匠の杉本五郎は人を叱ったりする人物ではなかったが、いわば総領弟子にあたる並木孝(現・なみきたかし)という男が、それはそれは徹底して人の人格を否定しまくる、すさまじい言葉いじめ人間であった。神経症になって田舎に帰ったり、病院に通ったりした奴が何人もいた。私は落語家の修行を知っているからさほど苦にはならなかったが、それでも何度もクヤシナミダで枕を濡らしたもの。あれを体験したからと言って人生に何かプラスになるわけでは全くないが、人格を全否定され、プライドを泥まみれにする経験を若いうちにするのは、決して無駄ではないと思う。とにかく、そんな経験して立ち直れるのは若いうちだけなのだから。もっとも、全ての芋之介が鏡花になれるわけではない。

 桜井氏とそこで合流、市場に戻って、買い物をする。ここで買ったものを、近くの料理屋さんで料ってもらうシステム。私も開田夫妻も談之助もサカナっくいであるから、ここぞとばかりに買い込む。ズワイガニの大きいの2ハイ(イカ1パイサービスでつく)、甘エビ、白子、ホタテ、イイダコ、ハマグリ。それ持って『しゃもじ屋』なる料理屋に行き、ビール飲みながら飽食。いや、茹でたてのカニのうまさよ。エビは市場で奥から出してきてもらったものでまさに甘く、イカのコリコリねっとりした身のうまみは言語に絶する。ハマグリとホタテは炭火で焼いて食べる。うまさという舌の満足の上に、タラフク食べるという胃袋の満足が加わる。文字でいくら書いてもこの満足感を伝えるのは難しい。『さんなみ』が弥生式美味だとすると、今日のこれは縄文式美味である。

 苦しいよー、と言いながら、今回の旅行のしめくくりであるハニベ岩窟院へ。ここは昭和26年、彫刻家の都駕田勇馬が江戸時代石切場であった跡の石窟を見て、そこに1000体仏の奉納による第二次大戦戦没者の慰霊を祈願して制作したという場所だそうな。ただ諸仏ばかりでなく、地獄変相なども刻まれ、庶民たちにハニベ地獄と して親しまれてきたという。

 100年以上かけて切り出された石窟の内部は見事なものであり、そこに石膏製のかなりキッチュというか、はっきり言えば稚拙な作りの仏像や地獄の鬼たちが並ぶ。初代院主の都駕田勇馬は日展の審査員まで務めたという履歴だそうだが、開田さんは“本当かなあ”と首をひねっていた。洞窟内にはアトリエもあり、二代目院主伯馬氏が新作を制作中だった。地獄変相の中にはウソツキ地獄で野村サッチーの像だとか、カレー地獄という林マスミの像だとか、非常にジャーナリスティックな(笑)ものも多い。出口に向かうと、小柄なお婆さんがこの岩窟院の由来を話しかけてくる。聞くとなんと、初代院主の奥さんだった。出身は東京・大森だそうで、初代と結婚して、こんな山奥へ連れてこられた、と笑いながらボヤく。山頂の涅槃仏は今回は雪で閉ざされ見られなかったが、睦月さんは大感動して、夏にもう一度来るという。入口まで降りてオミヤゲ店で、何か得体の知れない動物の置物を購入。ハルキゲニアかと思ったら、インコロ(犬)だということ。最後に全員で、二代目院主が頭だけ完成させた巨大な大仏さまの頭の前で記念写真。

 そこから小松空港まで行き、何から何までお世話になった桜井氏と別れる。やはり旅行は現地の人に案内してもらわないとウソ。原稿残してきた編集さんたちには悪いことしたが、実に充実した金沢旅行だった。

 飛行機の中でCURIOのボーカルが覚醒剤でつかまった記事を読む。談之助と、なんでロックやっている奴が覚醒剤なんかやってより働こうとするのかね、と話す。ダウナー系の方が音楽にはいいと思うが。45分で東京。新宿に出て、小田急の半地下でソバ食って解散。これでまた退屈な日常に戻る、というわけでもなく、明日からオタアミ2連チャンである。キチガイじみた毎日ですな。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa