裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

木曜日

アルチュール・ランボーニンボートンボー

 タイトルは若い子にはわからないよな。朝7時半起き。朝食は目玉焼(両面)と、クレソン炒め。私はトーストに目玉焼のっけて。あとリンゴ。薬局新聞一本。

 鶴岡から電話。今朝は珍しく悪口報告ではなく、モノカキとしての在り方などを問うてくる。私も師匠がましいことなどを少し話す。作家に見られたければ作家ぶらないこと、エラく思われたければエラそうにしないこと、先生と呼ばれたければ先生と自称しないこと。昨今のマスコミはひねくれているから、けっして本人の希望通りなどには扱ってくれない。睦月影郎さんが湘南に一億のビルを建てるという話をしたら“フェチ御殿ですねえ”と大感心していた。あの人は自分で自分のことをポルノ作家変態作家と自称しつつ、誰もその域に及べない領域を造り上げてしまったのである。

 G書房から、著作が取り上げられた書評類をFAX。D書房から進行状況打ち合わせ。いつもと変わらぬ日常。立川志加吾のHPがリニューアル、キムタクの例のCMみたいな自画像を表紙において『TBC』などと大書してある。“TATEKAWABAKA CHICAGO”だそうな。昼飯、K子の弁当用に作ったドライカレーの残りで。

 週刊文春の『いつか読む本』原稿、苦吟。書くことがないからではなく、書ける材料が多すぎる。こういうとき、こういう職業の人間はかえってハンデである。14×57に七転八倒、4回書き直す。その最中にMW社のTくんから電話、喫茶店でずっと待ってるらしい。忘れてた。あと二十分待って、と頼み、書き上げてメール。大あわてで外へ出る。

 打ち合わせそのものはいろいろとはずんで、展望の開ける話がたくさんあり、有意義だった。『トンデモ本 女の世界』続編の新メンバー推薦も問題なくOK。こちらでプロデュースできそうなワクも聞かせてもらった。買い物して一旦帰宅、原稿送った文春の編集部から、面白かったという留守電。苦労したかいはあったのかもしれないが、それにしても能率が悪い。

 5時半、タクシーで新宿へ行き、山手線で日暮里。恒例立川流日暮里落語会。安達OB、開田夫妻来ている。ロビーで談之助と少し話す。今年二人でプロデュースする寄席のことなど。出演者、談四楼(弥次郎)、文都(反対俥)、左談次(五人回し)笑志(たいこ腹)、志遊(初天神)、談之助(夢花火)。談之助のは高橋春男原作。立川流はみんな達者だなあ、という感じ。ただ、古典落語はもはや、聞きながら“どれだけ圓生や文楽の域に近付けるか”と測ることくらいしか出来なくなっているほど現代と乖離している。しかも、大概の場合、そのコピー元が家元の談志はじめ圓生、志ん生、文楽。録音が多く残っているから仕方ないのかもしれないが、先代文治や先代橘家圓蔵など、名人とは言えないがいかにも寄席風の軽みをもった人々の芸風を勉強した方がいいのではないか。おまけに、ある程度こっちもテープで聞いていると、今演じている人がどの名人のどの録音から学んだか、ということが聞いていてわかってしまうから、つい“あ、あそこのクスグリを飛ばした”などとチェックしてしまって素直に楽しめない。マニアの悲劇であろう。

 その中では、笑志が以前聞いたときよりはるかに達者になり、しかも細かなところまで志ん朝ソックリになっているのに驚いた。あとで談之助にきいたら、“不思議なもんで、体型が似た師匠の芸風についちゃいますねえ”ということ。何ケ所か破綻はあったし人物造形に新味はないが、結構なたいこ腹だった。

 そのあと、恒例の豆まき。仕事終わってかけつけたK子と合流し、いつも打ち上げをする居酒屋『酔の助』。節分ということで、握った豆の数と年齢が合致すればビール一杯サービス。安達Oさんが見事当てる。馬刺し、メヒカリ天ぷら、中落ちなどなどやたら食って、一人2600円は安い。

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