裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

火曜日

観劇日記・1『マジックアワー』DISHプロデュース

DISHプロデュース『マジックアワー』
作・演出/宮本多聞とマジックランド
出演/青木隼、飯島倬、魚建、大友恵理、近藤麻衣子、他
2011年10月8日
於/恵比寿エコー劇場

まず、舞台となる映画館のセットに感動。以前『アーバンフォレスト』の
舞台美術をよく担当していた天才・福島正平の手になるものである。小劇場の
セットとは思えぬスケールと仕掛け。しかもそれを福島氏はほとんど一人で
半日で作りあげてしまうというのである。これがまた見られたというだけで
感動であるが、それがまた、ノスタルジー感にあふれた、何ともいいセット
なんである。青年時代に名画座めぐりをしていた者にはたまらないであろう。
行方不明になった館主の後を引き継いで、戦後の復興期に建てられた名画座
『マジェスティック・シアター』の経営をやっていた主人公。だが、そこも
いよいよ再開発で取り壊されることが決定。地域の住人たちが集ってお別れ
パーティを開くことになった。
だが、そんなさなか、ふらりと前館主が帰ってくる。そして、それに合わせ、
館内に奇妙な者たちが姿を現す。某有名アニメの主人公、謎の動物、そして
前館主の、いなくなった奥さん……。果たして彼らの正体は?
という話。謎の女性役の大友恵理ちゃんは、こういう芝居では大抵、事件の
カギを握るトリックスター役で登場するが、今回もまさにそういう適役。
相手役の前館主が魚建さんなので、息もピッタリ。青木隼、飯島倬という
芸達者の好演もあり、ハートウォーミング・スラップスティックとも言うべき、
愛すべき作品になっている。

……だが、今回は、少し“仕掛け”が多すぎた気がする。すべての謎が恵理ちゃんに
収斂していくのではなく、その収斂先が多すぎるので、まとめ役の彼女が最後全てを
まとめられないのである。日常生活の中に入ってくる“フシギ”は一つの話の
中で一つ、でちょうどいい。そのフシギが多すぎてしまうと、観客はどこで
フシギがればいいのかがわからなくなってしまうのである。役者たちも巧い
し、いい話ではあるだけに、そこが惜しい、と思えてしまった。

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