裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

木曜日

アルフレッド亭ヒッチコック『鰻のサイコ』

「おい、そこへ行くのはサイコ持ちの一八じゃないか」
「うぎゃぎゃー」

※石川進さんインタビュー 講義打ち合わせ 杉ちゃん打ち合わせ

朝5時半に目が醒めてしまう。
世間様は連休だとか何だとか言っているようだが、
やること山積、どう時間をクリアするか、執筆時間を確保するか、
頭がそれでいっぱい。

9時朝食、イチゴ数粒、バナナ一本。
コーンスープカップ一杯。
青汁、漢方薬など。
午前中、いろいろ連絡事項、
撮影の服装などで出演女優陣に連絡など。
みんな、さすがにいろいろ考えてくれている。
電話二件あり。どちらもちょっと長話になる。

それやこれやで家を出るのが遅れ、タクシー使う。
車中、スケジュールの件を担当さんに連絡しようとするが
つながらない。
品川、パシフィックホテル東京。五分遅れ。
『TOON GUIDE』の取材で、石川進さん、
高桑慎一郎さんご両者の顔合わせインタビュー。
名刺をお渡しするとお二人とも、
「どこかで聞いたお声ですね」
と言ってくださる。

インタビューのメンツは眠田さん、早川優さん、またルゥさん、
けぺるさん、ラルフ爆死さん、黒イルカさんなど。
みなトゥーンについては鬼のようなマニアであり、
黒イルカさんなどまだ二十代なのに、四〇年以上前に
放映されたアニメ『秘密探偵クルクル』に関して
無茶苦茶な知識を持っている。
私はアートアニメはともかく、トゥーンに関しては
かいなでの知識しかないので、今日は昔のことのオブザーバーとして
インタビュー陣の末席を汚していればいい、と思っていたら、
高桑さんのお隣、石川さんのはす向いに座らせられた。
まあ、歳が歳だけに話を合わすことが出来るだろう、ということか。
あとで眠田さんの日記を読んだら、今日は“司会”役、
だったそうだ。知らなかったよ。まあ、仕切りの真似事はしたが、
司会役ならもっとやりようがあったのに。

石川さん、そのいたずらっぽい笑顔とお声は、まったく
私が小学生のころに見聞きしていたそのまんま。
昔の歌を歌うときも、キーを下げるなど一切しなくていい
そうで、とても75というお歳とは思えず。
そもそも、なんでこのパシフィックホテルでインタビュー
かというと、ここでディナーショーをおやりになっているとのこと。

パラダイスキング時代のお話、またお早う!子供ショー時代の
お話を私は中心に聞く。
トゥーンの本のインタビューなので話は『ペネロッピー絶体絶命』
や『スーパースリー』のことが中心だが、昭和四〇年代の
芸能事情(東京、大阪を毎日ムーンライト便で往復していた)
などがワクワクするくらい楽しい。
大ヒット曲『オバケのQ太郎』のレコード印税の意外な使い道
など、充実したお話が伺えた。

高桑さんも80歳とは思えぬお元気さと肌のツヤで、
こういう、子供時代の自分を作ってくださった方々とお会いでき
会話をかわすことが出来る至福を感じる。

お話が終わったのが4時半、ちょうど次の場所へ向かうギリギリ
だったので、事情を話してお先に退出、池袋まで。
朝早く起きすぎたせいか、背中がバリバリだったが、
腰までヘンテコになったきたので、また車を使う。
池袋まで、高速使って。今度は担当さんと電話、つながった。
〆切系、まだ首の皮一枚でつながっているらしい。
ホッとする。

池袋北口、喫茶『伯爵』。
オノが“伯爵なのに24時間営業ですよ〜”と笑っていた店。
昔ながらの喫茶店、という感じ。
東大大学院Y先生と講義の打ち合わせ。
以前から数回やっているが、今回はちょっとオモムキを
変えてこういう形で、という話。
準備も必要なので、数ヶ月先のこととなるが、ちょうど別件で
同じテーマの原稿依頼を某所から受けており、これも縁かも、と。
その後、いろいろ雑談。
いま書いている××で、こないだの東大講義のときの
模様を自己パロディにしてちょっと使わせてもらいました、
というような話。なかなかウケた。

1時間ほど話して、出る。
このときはもう腰にかなりきて、階段の降下も苦しくなっている。
次の打ち合わせまで時間があるので、ちょっと探すと、幸い
マッサージ院あり。飛び込みで入って、15分ほど腰を揉んで
もらう。ここは一時間と四十五分のコースだけで、15分という
のはないようだが、院長先生らしい初老の人が、
「いま、マッサージ師さんが全部ふさがっていて・・・・・・私で
よければ、15分ほど」
と言って特別に施療してくれて、しかも値段が1000円ポッキリ!
痛みはやわらいだし、得した気分になったことであった。

これで何とか息をついで、地下鉄新線使い、杉ちゃんこと杉浦氏の
自宅のある駅へ。WAHAHAのマネージャーのKさん、
迎えに来てくれる。
マンションで、CDの打ち合わせ。
やはり会って話をするとトントン進むもの。
杉ちゃんも
「あ、出来た。一時はどうなるかと思ったけど」
と安堵の表情。あと今後の予定は録音立ち合い一回、
対談一回。もう余裕できたか、その後飲みに流れる話まで。
今回、怪獣もののテーマをいろいろ聞いてもらったが、
『ギララ』の『月と星のバラード』、それと『キンゴジ』の
テーマがやはり名曲だ、と。

マネージャーKさん(女性)とトンデモ本大賞の話。
Kさんのお姉さんという人がと学会の大ファンで、
こないだのクアトロでのライブで私を見かけ、
「ねえねえ、カラサワシュンイチが来てたよ、何で?」
「いや、いろいろお世話になっているのよ」
「呼んだの? ギャラは?」
「出演者じゃないし向うから来てくれたんだよ!」
というような会話があったそうな。

で、帰りはバス停まで奥さんに送られる。
高円寺駅行き、とバス停にはあったが、新宿駅西口行きが
来る。これに乗ると、私のマンションのほぼ、真ん前で
停車するのである。
これなら杉ちゃんの家には日参も出来るな、と思う。
サントクで買い物して帰宅、すぐコンドロイチンZとアリナミン
(アリコン療法ってやつ)を服用。
とにあれ、予定どれも無事、いい結果だして終えられたので
ふうと息をつく。

メール、ちょっと長いもの一通。
すぐ真摯なお返事あり、安堵。
送った原稿の字句直しひとつ。
眠田さんもルゥさんも私の仕切りに満足してくれた模様で
少しホッと。

それから腰を気遣いながら夜食の用意、10時ころ。
ヤリイカと里芋とネギの煮付け。
スルメイカに比べヤリイカはワタが少ないが、墨袋があったので
これも入れて、黒作りの煮物にする。
見た目はちょっと食欲そそらないが、風味濃厚、
里芋は辰巳浜子流に、下ゆでをせず、剥いたらそのまま出汁の中で
煮る。イモの旨みに、ネギの甘味、イカの風味が染みて、
旨いのなんの。

山田誠二監督の『新怪談』のDVDを見る。
京都で一緒だった岩澤侑生子ちゃんなども出ている。
アートポリス大阪主催のフォーラムプログラムだけあって、
登場人物たちがみんな京都ことばでしゃべっている。
『死人の手ざわり』はカットのつなぎで、
侑生子ちゃん主演の(9分の短編だが)『憑きまとい』は
カメラアングルで怖がらせる手法を使い、
これまで見てきた山田監督のパブリック・イメージである
“B級ホラー”でなく、きちんと怖がらせる腕を発揮した佳品。
軽いものだが、最近のジャパニーズ・ホラーのハンパじゃない
怖がらせ方は、すでにエンタテインメントの域を越えてしまって
いるのではないか、と思えるので、この軽みが好もしい。
どちらの作品にも、男性が一人も登場しないところが
山田監督の意図なのだろうか。
ホラーは男性のものだが、“怪談”は女性のものなのではないか、
と実は秘かに思っているのである。

怪談つながりで、ユニバーサルの『狼男レガシーボックス』から
1935年の『倫敦の人狼』。いま話題の(?)チベットから
話が始まる。ラクダに乗った宣教師などというケッタイな人物も
登場する、空想上のチベットだが。
ストーリィ紹介は例によってエロの冒険者さんなどに譲る。
http://homepage3.nifty.com/housei/WerewolfofLondon.htm

主人公以上に印象的な役として、日本人の科学者・ヨガミ博士を、
チャーリー・チャン役者として有名なワーナー・オーランドが
演じている。この時期、オーランドはチャーリー・チャン映画で
一年に3本から4本もの主演をしている時期で(あまりにこの
スケジュールがキツすぎて、オーランドは体調を崩し、三年後に
急逝する)、ヨガミ博士も喋り方こそチャン式のカタコト英語では
ないが、垂れた髭や、部屋でのガウン姿など全く同じ。
観客は混乱しなかったろうか。
そして、狼男以上にこの映画で評判になったのは、ワンシーンのみ
の出演だが、カエルを食べるマダガスカルの食肉植物だった。

主演のヘンリー・ハルはこの時45歳だが、50代の老けメイクを
している。時代の制約であからさまにそこを語ってはいないが、
彼は若い美しい妻を持った初老の学者で、妻が老いて世間の話題にも
乏しい研究室籠りの学究である自分より、幼なじみの若いハンサムな
男に心を移していくことに、諦めと強い嫉妬を感じている。
この映画の隠されたテーマは、若い妻を性的に満足させられない
男の意識下のあせりが、男を狼にする、というものだろう。
だから、売春婦や動物園の園丁と不倫している女など、乱れた性を
象徴する(逆に言えば性の悦楽を謳歌している)女性たちを惨殺し、
そして、自分を裏切った妻を最後に襲い、刑事に撃たれて死ぬ間際に
“これでいいんだ”と言い、妻に向って
「君を幸せにしてやれなくてすまない」
と最後の言葉を残すのである。
悲しいモンスターなのだな。

結局、就寝がまた一時過ぎになる。
背中はアリコンのおかげでやや快復。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa