裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

1日

金曜日

フォースのあんかけ麺

 落ちたらべとべとだぞ(オビ・ワン談)。朝7時起床、雨ふりみふらずみ。入浴、8時朝食、スイカ、ジャガイモの冷スープ。雨のあとはマンションの庭の周囲にヤスデがうじゃうじゃ這い出す。土の中に住んでいて、雨が降ると呼吸が出来なくなるので地面に這いだし、結局太陽に照りつけられてひからびたり鳥のエサになったり人間に踏みつぶされたりする。おそらく何億年も前からこの生活スタイルでいたのだろうが、なんとかしようとかこれじゃいかんなという気を起こしたことがないのか、と思う。そんなだからいつまでたってもヤスデなのだ。
 母がガーデニングの人にヤスデが多いですねえ、と言うと
「でも、今年はヒルがいませんから」
 との答えだったとか。去年はヒルがいたのか。

 自室に帰り、週プレMくんから来たテープ起こしを元に原稿まとめる。まだ正確な行数が出ていないので、とりあえずのまとめ。12時に関係者にメール。タクシーひろって急いで渋谷へ、のつもりが、雨のせいか1日のせいか、馬鹿な混みよう。新中野〜渋谷間が1時間半(いつもの3倍強)かかった。ダレ果てるがいいこともあり。時間をもてあまして、エイバックO氏に携帯かけたら滅多につかまらないO氏が電話に出て、現況をいろいろ聞けた。ネガティブな情報もあったが、まず進行状況がきち んとつかめたのは良し。何もわからないままよりはるかにいい。

 仕事場について、弁当がちょうどシャケだったので、コンビニで出がけに買った温いお茶をぶっかけて茶漬けにしてザザッと掻き込んで、時間割に。幻冬舎Nくん。社会批評本、延ばしに延ばしたがそろそろ時期。今後のことをいろいろと。林由美香の 話も聞く。Nくん、彼女が一時風俗に務めていたとき(以下略)。

 そう言えばNくん待ちながら読んでいたスポーツ新聞で、林由美香の記事に
「急死した林由美香(本名・小栗由美香)さんは……」
 とあって驚く。“おぐりゆみか”って。漢字が違うが、読みは一字違い。うーむ。それで思い出したのがこないだおぐりゆか本人から聞いた話。彼女のお母さんは彼女が生まれたとき、“美”の字をどうしてもその名前の中に入れたかったのだが、姓名 判断で
「小栗という名字と美の字は絶対に合わない」
 と言われ、あきらめたのだそうな。その姓名判断、正しかったわけか?

 それら(書きおろし、林由美香の風俗)とは別件に別方面からツナギを頼まれていた某件も打診。
「ぜひぜひ!」
 とのことだったので安心。

 仕事場にもどり、その旨を相手先に報告。それから講談社週刊現代のマンガ評。5時までということだったが5時10分にアゲ。それから二見用の原稿ネタに。鶴岡から電話、7月7日にまた東大で講演とのこと。裏情報で某サブカル系大物の笑ってしまう件。いや、笑えない。自分も現況下で、似たようなことを無意識にやっている可 能性大。

 ネタ出しのみ十本、やって二見Yさんと連絡、タクシーで新宿。まだ甲州街道混みあっているようで、裏を抜けてもらう。車中、週現Nさんから原稿確かに受け取りましたの電話。埼京線で池袋。東京芸術劇場で、橋沢進一さんの『あぁルナティックシアター公演『ブエノス・アイレス』。うわの空の金澤くん、津川くんがスタッフに参 加して受付にいた。

 花が届いていることを確認、ロビーにいたらおぐり、小林三十朗さん、海谷さんも来た。先生、と声かけられたので誰かと思えば柴田理恵さん。ちょっと立ち話。15分オシで開演、『ただいま!』で私服でお父さんを演じた橋沢進一さんが、ピカチュ ウのキョンシー、といった派手な衣装で狂言回しをつとめる(作・演出も)。

 16世紀スペインを舞台にした人間と吸血鬼たちの争いの歴史、という設定だが、主人公はロックスターだし、服装も現代のものと時代ものがまざっているし、そこらへんの設定はいかにも小劇団風の自在さ。ダンピール(ヴァンパイアと人間の間に生まれた子供で、吸血鬼を退治する能力を持っている)などという澁澤龍彦的佐藤有文的な設定と、楽屋オチ含めてあたるを幸い風に盛り込まれているギャグの連発の融合にアタマの中で時間がかかり、最初、少しノリ損ねてしまって、ありゃりゃりゃという感じだったが、話が進んで内容にこっちが入り込めるようになったあたりからぐんぐんと盛り返し、クライマックスの盛り上がりに気がついたら大ウケしていた。

 ことに中盤で特出格で登場する清水ひとみさんのパワーが凄い。アットーテキという感じであった。
「WAHAHA呼んどいて下ネタ禁止もなにもあるかー!」
 と(これも仕込みのうちだろうが)パワー全開、遊女風お色気ぶりから騒音おばさんの真似まで次から次へと持ち出してくるギャグ、いやひっくり返りました。橋沢さんは大人の風格、一歩下がったまとめ役に自分を置いて舞台全体を締めている……と見せかけて最後はドンデン返しのキーマンになる。楽屋オチをうまく使って話を進行させているのもポイント高し。楽屋オチを嫌う人も多いが、ギャグというものは本来手近にあるものを何でも使う咀嚼力の強さから生まれるもので、使えるものはなんであっても使わなければいけない。“あれを使っちゃおしまいだ”という人間に、特に ギャグの分野ではブレイクすることはできないと思う。

 あと役者としては吉本ノリが決まっているNC赤英が結構、凄いマイム芸を見せる鶴岡アキラは以前見て名前を覚えていたので、いきなり出てきてびっくりした。ダンサー陣を別にしても25人以上いる登場人物の出入りがあわただしく、よくこれだけの人数をまとめるなあ、と感心したが、一方でとっちらかってしまっていて、あと一押しすれば客ももっと沸くのに、と思うギャグもしばしば。もっとも、これはスピー ド感とカーニバル感を前面に押し出す演出意図故、なのだろう。

 カーニバル(祝祭)という言葉が出たが、まさにこの芝居、舞台もスペイン。私は頭デッカチな文学的演劇青年だったころ、演劇における“踊り”の要素がどうしても気にくわず、ダンスしているヒマがあったら芝居を進めんか、と腹を立てていたものだったが、演劇の原点がお祭(カーニバル)における出し物であると知って、なるほど、と膝を打った。映像の演出なども今後やっていく上で、踊りの要素というものの 必要性をもっと積極的に勉強し、取り入れていかねばと思った。

 終わって橋沢さん、清水さんに挨拶、これから直にふらないスタジオ入りするおぐりと柱くんと別れて、小林さんと池袋の中華屋天府酒家(夜遅くまでやっているというだけが取り柄の安くてまずい店だが昔からよく行っていた)でメシ食いながらいろ いろ話す。演劇論から人生設計まで。小林語録、唐沢語録いろいろ出た。

 楽しかったがオヤジ二人なにを熱く、と思われたか。料理、以前と変わらずまずくて嬉しい。最後の四川風チャーハンなど、冷蔵庫のあまりもので作ったんじゃないかと思うようなもの。池袋は(私の中のイメージでは)これでなくてはイカン。11時 半に出て別れ、丸の内線最終で新宿まで。そこからタクシー。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa