裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

木曜日

ぜんざい五郎

 そんな考えで第一外科の教授になれると思っているなんて、君は甘いよ! 朝、7時45分起床。朝食、豆サラダ。そんな簡単に効果が出るものかどうか、怪しいのであるが、日記を読み返していただければわかる通り、先月末に一週間ほど、豆サラダをよしたことがあったのだが、その結果は、花粉症によるクシャミが再発した(例年よりははるかに軽いが)。で、翌日から朝を豆食に戻したら、とたんにまた、ピタリとクシャミが出なくなっている。ありがたいことはまことにありがたいが、果たして豆にそれほどまでの効果があるのか、やにわには信じられず、うーんと首をひねる。

 新聞にアメリカ軍捕虜奪回の記事、大きく。この、ただ一人生き残って救出された女性兵士というのが、19歳の美人(お世辞抜きで)である。美少女奪還というこの戦果がアメリカ国民の士気に与える影響は多大なものがあるだろう。次は彼女に愛国心あふれたコメントをさせることが、ブッシュ政権にとってはデイジー・カッター以上の威力を持った武器になる。まるでしくんだような、効果絶大の救出劇。テレ朝で鳥越俊太郎が苦々しい顔をしていたのもむべなるかな。

 昨日の日記に書き忘れたが、香港映画のトップスター、レスリー・チャン自殺。本日の報道によると、同性愛のもつれらしい、ということである。
http://www.nikkansports.com/ns/entertainment/p-et-tp0-030403-0001.html
 彼には長年連れ添った年上の恋人があり、その名前が“唐先生”と呼ばれている人物であるとのこと。私のところに来るメールにも、“唐沢先生”を打ち間違えて“唐先生”となっているのがときどきある。これからは署名にこれを使おうか、などと思う。また鶴岡あたりが面白がって何か言いふらしそうであるな。

 ゆうべの華暦での予想違わず、今日は朝から好天。この隙に、と、遅れている講談社Web現代原稿。正午からカリカリやって、途中昼食をはさみ、3時半までに9枚半、アゲてメール。次の〆切日が明日、というのが。昼食はパックご飯にミソ卵を作りぶっかけ飯。それから、太田出版のゲラに赤を入れて、マンション前の郵便局に行き、速達で出す。郵政公社に一昨日からなっているわけだが、あまり変わったところも見えず。青山まで出て、買い物。肌寒く、桜も寒々しげである。表参道の三菱銀行で振り込み一件。渋谷でもここでも、化粧した若い男性を見かけた。何かあるのだろうか。

 帰宅したら、さらに別のゲラがゆまに書房から届いていた。これにも赤入れ。再校ゲラが出せるような優雅な仕事は最近久しぶりである。一緒に添えられていた、秋からの出版の企画書内容が、思っていた以上に私にとってはうれしいもの。実作業は初夏くらいからになるだろうが、始まるのが楽しみである。とはいえ、ゲラは、再度読んでみるとわが文章の品格の低さみたいなものが鼻につく気がして、少々メゲる。これで本になってしまうとまた、違うのであるが。自分の文章というのは、あまりゲラで手を入れてはいかんのかも知れない。

 ちくま新書『戦争倫理学』(加藤尚武)を読む。こないだの読売新聞の書評で褒められていたので買ってみたのだが、ざっと一読した限りでは、典型的インテリ平和主義者が、小林よしのりからヘーゲルまで(この並べ方はおかしいか?)の戦争必要論に対し、“必ずしもそうとはいえない”レベルで反駁しただけのもの、であって、力ある反戦論とはとても言えない。と、言うか、その論の内容に立ち入る前に、文章のへなへなしていることが、読む気力を失わせてしまう。なんでもかんでも昔のものを褒めるわけじゃあないが、昔の学者、例えば和辻哲郎や西田幾太郎の文章はその学識に見合った、個性と説得力のある名文だった。別に彼らに匹敵する文章を書けと無理なことを言っているわけじゃなく、“ここが読み(読ませ)どころだな”という部分では文の結尾を工夫するとか、強調の形容をつけるとか、そういう作業ひとつで、随分印象が変わってくるだろう。

 夏コミ同人誌(6月のと学会東京大会で先行発売するので〆切が早い)のための、Z級怪奇マンガ翻訳作業ちょっと。内容はアホか、みたいなものなのに、そこは怪奇ものだけにフレーズだけは仰山である。“古井戸の底の深い暗闇。そこでは腐敗した霧が地獄に堕ちた魂が身に着ける経帷子の如くにただよい、悪鬼どもが永遠の夜の中で呻吟する! ……しかし誰が知ろう、超自然の未知なる王国を。畏怖と共に訪うがよい。そこにはただ永遠の恐怖があるのみなのだ!”……あまりのオーバーさに訳しながら笑ってしまう。

 8時半、NHK前『船山』。今日は私たち夫婦の貸切状態。それでもご主人、なんか意気軒昂。“カラサワさん、「苦労」と「試練」はどう違うと思いますか?”などと聞いてくる。あと“本を書くときのコツを教えてくださいよ”などと、真面目な顔で訊かれる。出すつもりらしい。客が他にいないときに来ると刺身などがサービスで盛りがいいのがうれしい。初ガツオにキアジ、貝割、ウルメイワシのたたき、エボダイ、それにミル貝。あとは身がたっぷりの城下ガレイのつけ焼き(中骨以外、頭も尻尾も齧って食べてしまう)、ハマグリの天ぷら。デザートの桜アイスが風流でおいしかった。たっぷり食べて、胃に血がいってしまっているからだとは思うが、外はまだ寒い。ふるえながら帰り、非常にご機嫌で就寝。

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