裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

28日

火曜日

観劇日記・19『わが家の芝生』(劇団ヨロタミ)

『わが家の芝生』
劇団ヨロタミ第16回公演
グリーンフェスタ2012参加作品
作・演出/坂本直季
出演/(チーム民) 藤森太介 山崎まさ江 金藤洋司 南井貴子 水谷千尋
   五十嵐さゆり 香川眞澄 岩川鉄平 蝦名建男 中澤隆範 小出千鶴子
   並木静子 栗田玲子 武田敏彦 宮川蘭子 立花伸一 野中富徳
   坂本直季
於/池袋シアターグリーンBОX in BОX
2012年2月25日(土)鑑賞

第一回ルナティック演劇祭の客演で、そのトンでた演技で唐沢俊一賞をゲット
した(名誉にはならないw)中澤隆範さんの所属する劇団ヨロタミの公演。
ヨロタミというのは
「ヨロしくタのミます」
の略だそうだが(ホントか)、今回は、チーム(宜)、チーム(民)と、
Wキャストを分けている。中澤くんは終始タンクトップの肉体美(?)を
見せて、宜、民両方に出演。いや、このスタイルがオチに連結する。

劇場のボックスインボックスにはつい数日前、ColorChildの『セルフポート
レート』を観にいったばかりである。暗幕とパンチシートだけのシンプルな
舞台だった。今回のヨロタミは180度違って、無茶苦茶にリアルに、中流
家庭のリビングを再現している。アタリマエの話ではあるが、劇団が違えば
舞台もこうも変わるのか、と、同じコヤの変化がかなり印象的だった。劇中で、
トイレを借りた登場人物(作・演出兼の坂本直季)が、中から
「わーすごい、本当に便器がある!」
と叫んで笑いをとっていた。もちろん客席からは見えないが、たぶん、実際に
便器が備えられているのだろう。舞台美術の人にはそういう凝り性なタイプが
多いのだ(美術製作・奥山泉、大道具・植田泰元)。

セットと同じく、キャスティングもリアルで、お婆ちゃん役の五十嵐さゆり
(東宝のゴジラ映画などによく出演しているとか)が老け作りをしている
以外は、ほぼ役者の実年齢に合わせてあると思われる。老人会の老人たちには
本当に60代、70代のシニア役者(定年退職後に芝居を始めた人々とか)
が扮している。

会社を早期退職した田代家の主人、秀康。通勤に2時間30分かかる郊外
ではあるが庭付きの一軒家をかまえ、愛妻の美千子と、これからの生活を
夢見る立場。とはいえ、元気な母親は妻と折り合いが悪く、長男は引きこもり、
長女はまともな会社務めだが妙な音楽家とつきあっており、次女は大学を
二回も留年してパチンコはまりの毎日……と、それなりの悩みも抱えている、
という設定も妙にリアル。もちろん、コメディであるから、それぞれのキャラ
や演技にはコミカルなディフォルメがなされているし、楽屋オチもあるのだが、
小劇場演劇でよくある、回想や見立てという演出は全くない。ある意味、
基本というか非常にオーソドックスな喜劇である。

だから、よき母親である美千子が、毎日の退屈から逃れるために始めたネット
での株の売買で、次第に悪質な業者のワナにはまっていくくだりにはちょっと
真剣にハラハラしてしまった。もちろん、美千子役の山崎まさ江、そして悪役の
立花伸一の演技のうまさのせいではあるが、あきらかに舞台の、あきらかに
コメディの登場人物に、こんなに簡単に感情移入してしまうのが自分でも意外
だった。これが、セット含めて、徹底したリアルな作り(劇中で何度もなされる
食事も、全て本物である)で固めている演出の成果なのだろう。人間の気分と
言うのは、思った以上に視覚的なイメージで左右されるものなのだ。

一方で、シニア役者さんたちの演技には別の意味でハラハラした。稽古は
きちんと積んでいるのだろうが、それでも年齢の悲しさ、セリフは噛む、
ど忘れする、何より瞬発力が衰えるので、相手のセリフを受けて自分がセリフ
を言うまでの間に一瞬の“間”が生じ、それが芝居のテンポをかなり崩す。
いや、もちろんそれを補ってあまりある味があることは確かだが、私自身が
自分の、中年になってからの演技の限界に悩んだ時期があるだけに、この
ポイントは最後まで正直な話、気にならざるを得なかった。

もちろん、それをまとめるお守り役の中澤隆範、岩川鉄平、そして坂本直季たち
の演技には感心したし、ダメ女子である次女の十実を演じる水谷千尋のキャラ
が面白かった(彼女がギャンブルにハマる様子を笑わせて見せておいて、その血
が、株にハマる母親からのものだということをわからせる演出は上手い)。
そして、せっかく美人女優なのだから、南井貴子の長女・百恵をもう少し話の
中心においてもよかったのではないかと思う。そうすると、男性陣がみんな、
彼女目当てに田代家に集っている、と思わせて、実は……という、あの
驚愕の(笑)オチがもっと、効果的になったと思うのであります。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa