裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

20日

月曜日

観劇日記・15『空に星があるように 浜辺に砂があるように 街に・・・』

『空に星があるように 浜辺に砂があるように 街に・・・』
WAHAHA本舗PRESENTS
作/演出:喰始
脚本/勝栄(?)
出演:清水ひとみ 省吾
於」新宿ゴールデン街劇場
2月15日(二日間公演二日目)鑑賞

清水ひとみさんと私は以前、彼女がやっていた『大女優宣言』で共演、
ポカスカジャンの省吾さんもラジオでご一緒している。
WAHAHA本舗だから当たり前ではあるがこの二人の強みは下ネタを
(いやらしくなくも、いやらしくも)出来ることで、以前の大女優宣言では
他にいろんな客演さんがいたが、この二人が常にベストコンビだった。

それには、脚本の勝栄の力も預かって大きかったと思う。
彼女の脚本の、女性脚本とは思えない大胆な性的モラル逸脱の扱い方に
ひっくりかえって大笑いし、大ファンになった。
「たぶん、この人はくわえタバコで、役者に”つまんないよ、あのアドリブ“
とか吐き捨てるように言うんだろうなあ」
と予想していて、実際に会ったらその通りだったのに大変満足を覚えた
ものだった(笑)。後に『喰始の生前葬』の挨拶に駆り出され、ギャグを
飛ばしたとき、後で勝栄さんにベタ褒めされたのが、秘かな誇りである。

今回も、前もって見た案内には「脚本:勝栄」の文字があったが、
劇場に入って聞いたら、なんと”今回は脚本なしです“との話。
詳しくは本番前に聞けなかった(役者さんのテンションを乱しちゃいけない)
が、どうも省吾さんが、脚本家と演出家の意図がわからない、と間際に
演出に従った演技を拒否し、喰さんとぶつかったらしい(その状況を舞台で
アドリブで思い切りバクロしていたw)。

で、(後で喰さんに聞いたら)「じゃ、アドリブ芝居でやれ」になった
そうであるが、もともと、この二人の芝居は脚本の面白さと演出の細かさ
で成立していたものである。いきなりアドリブをふられても、という
とまどいが清水さんには見えたし、しかも前の芝居で舞台上に上げたお客さん
が、次の省吾さんの独り芝居ネタで、まだ舞台上に残っていたという
アクシデントもあり、徹底した
「どうしようか感」
のただよう舞台になっていた。省吾さんが死体の人形(これが凄い出来。
ゴジラ映画の美術の人の作だそうな)と、清水さんがカンガルーの
人形(これも、表情を変えられたりして出来がいい)を相手のアドリブ
芝居だったが、清水さんに聞いたら、何度もマジに
「燃やしたい」
と思ったほど悩んだそうだ。

ラストの『わが人生に悔いなし』は、ちょっと勝栄調がかいま見える内容
だったし、二人ともマジキスを舞台上で見せる熱演だったが、完成度という点
ではこれまでの舞台に比べてかなり落ちることは否めない。

だが、じゃあ今回の公演は無駄だったか、というと、そうとは思えない。
WAHAHA本舗はお笑いを主体としている事務所だが、お笑いで人気をとる
のに求められる要素は、今はネタ以上に、個々のキャラクターである。
省吾さんには、そのキャラクターがあるし、清水さんにももちろんある。
特に清水さん、冒頭の『私祈ってます』の、呪いキャラには大いに
笑わせられた。あれを伸ばせばかなりいいところまでいくと思える。

以前の大女優宣言は、脚本にあるネタに助けられて、大いに完成度の高い舞台
だった。次のステップで清水ひとみに求められるのは、ネタが未完成でも、
それを自分の力で笑わせてしまう舞台にする、そのキャラクターの確立だろう。
この舞台を、一度は通過する迷いの門として、清水ひとみの成長の糧にして
ほしい。省吾さんも、結婚してもちゃんと脱いでくれる律義さを忘れずにw。

※写真はひとみちゃん、それに省吾さんと共演した死体。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa