裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

27日

水曜日

古い映画を見ませんか・21『裏切者は地獄だぜ』

片岡千恵蔵主演『裏切者は地獄だぜ』(小沢茂弘監督・1962年東映映画)

片岡千恵蔵と小沢茂弘のコンビによる、『奴の拳銃は地獄だぜ』(19
58年)に始まり『地獄の底まで付き合うぜ』(59)『二発目は地獄
行きだぜ』(60)『俺が地獄の手品師だ』(61)『地獄の裁きは
俺がする』(62)と続く“地獄”シリーズの最高傑作。

片岡千恵蔵が二挺拳銃をかまえる主人公を演じるのは多羅尾伴内ばかりでは
ない。『アマゾン無宿・世紀の大魔王』でも二挺拳銃をぶっぱなす。
そして、この“地獄”シリーズでもやはり、二挺拳銃だ! ……どこが多羅尾
伴内と違うのか、よくわからない。変装をするかしないか、くらいか。

それはともかく、この地獄シリーズは、実は千恵蔵御大よりも、脇のコメディ・
リリーフを毎回つとめる進藤英太郎の方が目立っていたりする。
この映画でも冒頭、黒人選手とボクシング試合をやるのである。
吹き替えでなく、本人自身が、殴り合ったり、股間を蹴り飛ばしたり、
もう大暴れなのである。最初はやられてメロメロになるのだが、セコンドが
エロ写真を“勝ったらご褒美だぞ!”と見せると、急にハップンして相手をノシ
てしまう。腕には“スキスキスキ女”と書いた彫物。ちなみに言うと、この役を
やったとき進藤英太郎64歳である。エラいもんである。

実はこのボクシング試合は北海刑務所の囚人によるもので、刑務所の中での
日米親善試合であった。彼に好意をよせている所長(これが試合で彼にエロ
写真を見せて興奮させたセコンドであるw)はもう少し服役したいという進藤
を説得して出所させる。迎えに来たのはかつて組で彼の弟分だった高倉健と
江原真二郎の二人。もちろん兄貴の好きなお姉ちゃんを三人も連れていった
ものだから、進藤の兄貴は大喜びで、ピストルをじゃんじゃか撃ちまくり、
街灯やバス停の看板は壊すわ、通行人の帽子を吹っ飛ばすわ、警官の自転車
をパンクさせてひっくり返すわ。なぜ速攻で刑務所にUターンさせられないの
か、さっぱりわからない。

健さんと江原によれば進藤の服役中に組は乗っ取られ、彼らも新しい親分を
見つけたという。その親分とは誰だ、と憤る進藤の前に現れたのが……そう、
片岡千恵蔵、その名も海山千吉。こんな奴の子分になれるかい、と進藤は
自分の背中の彫物を見せ、お前はどんなのを背負っている、見せてみろと
迫る。仕方ねえなあ、と千恵蔵が片肌を脱いでみせると、そこには12個の
黒星と白星が1個。聞くと、大物ギャングを一人地獄へ送るたびに、星に
黒く墨を入れていくんだという。恐れ入って子分になる純真な進藤であった。

で、後はこの四人が麻薬密売組織を追っていく、というダンドリになるのだ
が、彼ら四人は自分たちの主題歌を歌いながら組織に乗り込んでいく。
「♪海千、山千、一騎当千、その名も高い地獄野郎……」
いつ誰が作詞作曲したのか、などと聞いてはいけないw

警察からスパイとして送り込まれた捜査官、鶴田浩二や物干しに干すパンティ
の色で暗合を送る佐久間良子、自分たちの親だの姉だのが怪しげな事件に
巻き込まれてもなおかつイチャイチャするのをやめない梅宮辰夫と三田佳子、
そして事件の黒幕丹波哲郎……こうしてみると、そのキャストの無意味な
豪華さ(笑)にちょっと驚く。このキャストと、ストーリィの快調極まる
いい加減さとの対比が凄い。
「なあオメエ、オレはヨウ……」
としゃべっていた千恵蔵がラストで正体をあかし
「ボクは警視庁麻薬捜査官、檀原警部だ!」
とボク名乗りをしたときには思わず吹いてしまいましたがな。

いかにも62年12月公開の映画らしく、鶴田浩二がヤクザになって名乗る
名前は”キューバのジョー。キューバ危機がこの年の10月に起こり、ケネディ
政権は水爆使用を本気で検討しはじめる。世界は核戦争ノイローゼに取り憑かれ
ていたが、娯楽映画はむしろ放射能をネタに使って大いにヒットを飛ばした。
同じ年公開の『007は殺しの番号』などはその最たるものだったろうが、
実はこの映画もまた、水爆映画、放射能映画である。
どこが、と思われるかもしれないが、進藤英太郎の役名が“ピカドンの熊次”。
彼が自慢にしている背中の彫物は、キノコ雲から放射能雨が降り注いで
海の魚などを汚染しているという図なのである。
放射能より強いのはこの時代の映画人の商売っ気だったかもしれない。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa