裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

25日

月曜日

命の電マ

「死ぬ、死ぬ」
「待ちなさい、何か悩みがあったら聞いてあげる」(何か勘違いを)

※『爾汝の社』観劇

朝、寒くてベッドの中でぐだぐだと。
うつらうつら状態で見た夢。
ゾンビ島。ゾンビの群と戦う主人公と合流して共に戦う。
この島のゾンビは銃で頭を吹き飛ばしても一度では死なない。
必ずもう一度よみがえってくるので念入りに殺さないといけない、
と主人公が言う。何故かと訊くと、ゾンビをそもそも出現させた
張本人の魔導師が反省して、
「ゾンビ再びよみがえることあらじ」
と呪文を唱えていた最中に主人公が銃で撃ち殺してしまい、
「ゾンビ再びよみがえる」
まで呪文が唱えられたので、二度殺さないといけなくなったと言う。
それを聞いて“あんたが悪いんじゃないか”と思う。

9時、起床。
抜けるような好天。
月曜だから、ということもあるが、正月休みがやっとあけたか、
という感じで仕事関係のメールやFAXが頻々。
ゲラチェック、打ち合わせの日取決め、企画問合せの返事、
などなど。テンションは上がるがいささかヒイ、となる。
パイナップルジュースとコーヒーで朝食代わり。

昼食は12時、如例。
服薬、ミリ数減らした分、錠剤を1.5錠とか、めんどくさく
なった。
塩鮭、サヤエンドウとタマゴの炒め、キャベツとニンジンのサラダ、
豆腐の味噌汁でご飯一膳。小みかんとイチゴ。
最近、みかんの消費量が激減して、その原因がネイルアートに
あるとか。馬鹿な話である。

テレビで篠山紀信の書類送検について、やはり書類送検された
原沙央莉が
「先生も反省するところは反省して、これからもいい写真を
撮っていただきたいですね」
と凄くエラソウに言っていた。AV女優とはいえ、その押し出しのインパクト、
オーラも魅力もそこらの三文タレント及ぶものにあらず。
発言の堂々たることにも感服。
時代は変わった。

ゲラチェック、字数との戦いでいろいろ手を加える。
某出版社から、お願いごとについて前向きな返事、ただしその
後に追伸でかかれたいた数行のコメントに目が吸い付けられる。
ちょうど、どこに持っていこうとあぐねていた企画に関して、
その編集子がつながりがある、という件だった。
これはまったくの偶然である。
すぐさま、さらにお願い事を重ねたメールを返信で。

6時15分、家を出て新宿。ちょっと意外なニヤニヤ事あり。
山手線で日暮里まで。b−倉庫なる劇場で劇団レッド・フェイス
『爾汝の社』観劇。客演で川上史津子さんと鈴木ちえさんという
知り合い二人が出演している。この二人はフリーで、今回の共演は
全くの偶然キャスティング。世間は狭い。劇団界はさらに狭い。

入ると意外に広いスペースがある劇場。開演間近に入ったので
もうほとんど満席。案内係の人に空いている席を教えてもらい、
前から二列目の端の席についたら、
「先生!」
と驚いたような声があった。隣の席の人の顔を見たらなんと
立川談奈くん。これには驚いた。
「僕を見てこの席につかれたんですか?」
「いや、全く。後ろからだったんで全然わかんなかった」
「不思議ですねえ」
と。世間というものがそもそも狭過ぎ。
舞台の上には遊廓風のセット。談奈くん
「ここで廓ばなしとかやりたいですねえ。(自分は)持ってない
ですが」
と。確かにセットは金がかかっている。ルナの、セットらしきものが
ほとんどない舞台ばかりやっていると、いやうらやましい、と
思うばかり(ただし、小道具等はほとんどなし。マイムでやって
いる)。

ただ、天井がこれだけ高い劇場だと、声が吸い取られてしまって
セリフを聞き取らせるのが大変だろうな、と思うし、乾燥が
キツいだろうな、とも思う。楽日近くだからだろうが、声の
苦しそうな女優さんが何人かいた。ここの劇場の故では
ないかと想像する。

で、上演開始。架空の江戸時代、架空の遊廓における
女郎たちの物語。遊廓“くるり籠”は、遊女たちの源氏名に
鳥の名前をつけていた。ある日、花魁の一人雲雀は、吉原の
大門(劇中では羅生門)の前で泣いている一人の少女を
見つけ、くるり籠に連れてくる。少女は貧しい農家の娘で、
口減らしのために捨てられたのであった。

百舌、と名付けられた少女は下働きとしてくるり籠で働き
始める。ところが、モズの前に、とうの昔に死んだ伝説の
花魁、鳶(トンビ)が現れる。彼女はこの遊廓で見習い女郎と
して働く自分の娘、インコを助けてやってほしいとモズに
頼む。しかし、廓の主人はやがてインコに客をとらせて
しまう……。

まず、この舞台が大変魅力的なものになり得ていたのは
キャスティングの妙であると、これは言っておきたい。
主役の史津子さん、伝説の花魁役のちえさん共に、膝を打つ
キャスティングであり、
「百の演技指導も、一つの打ってつけの配役にはかなわない」
                    (伊丹万作)
という言葉に従えば、そこで全てが語られる、というような
舞台であった。労咳でこの世を去る丹頂花魁役の麻生奈々子
さんなど、見ていてそのはかなげな風情に心配になってしまったくらいだし、
インテリ花魁の雲雀、気の強い孔雀、田舎者丸出しだが気の良さ
で人気女郎のミミズクなど、ひと目顔を見てその役柄が納得できる。
全員並ぶとちえさんがやはりトンビ役で他ではないキャストだよなあ、
と思えるんである。
キャスティング責任者はミミズク役の窪田あつこさんだと
いうことだが、この舞台の最高殊勲賞は彼女であろうと思う。

ただ、あまりにそのキャスティングが面白いので、逆にストーリィが
見えにくくなっている気もした。上に述べたストーリィは
パンフレットに書かれていたものを元にまとめたものだが、
トンビが幽霊として迷って出てくる理由である、娘・インコへの執着を、
単にモズへの言葉だけで説明しているのが弱い。なぜ、他に新造も
何人もいるのにモズにだけインコのことを託すのか、という理由づけも
はっきりしない。他の女郎たちの背負っているエピソードと並列に
なってしまっている。ここは、やはり一頭地を抜く、主要テーマとしての
演出が必要だろう。要は、主要テーマを描くより、脚本家も演出家も、
個々の花魁を描くことの方が面白くなってしまったのではないか、
と思える。

とはいえ、ほぼ満席で追加公演まで決まった公演というのは
これは大成功だろう。勉強になる芝居であったことは確か。
いちいちの演出やセリフに、ここはスゴい、ここは使える、
ここは自分ならこうする、などとうなづきながら見ていた。
やはりこれだけ美女が(美女だよ、美女! と強調)揃えば
華があって舞台が映える。
音楽の使い方もユニークで面白い。ほぼ全編にBGMが流れ、
女郎全員が『ミニー・ザ・ムーチャー』で踊るシーンなどは
拍手ものであった。
一番笑ったのは志津子ちゃんが年齢を訊かれ
「さんじゅうは……じゅうさんさい」
と答えるところ。

終って、談奈にどうだった、と訊いたら、
「やっぱり落語家としては吉原というとオーソドックスなイメージが
頭に染みついているので、調整に時間がかかりますね」
とのことだった。とはいえ、オーソドックスに吉原の衣装や
かつらを借りたらそれだけで数百万円かかる。
ちなみに、彼がこの芝居を見に来ていたのはヌエ役の塚本あい
さんの知り合いだったからだそうだ。彼女、なかなかよかったよ。

ロビーがここの劇場広くていいのだが、そこがぎっしりになるほど
の出待ち。ちえさん、志津子さんに挨拶。
お二人ともお疲れさま。
偶然だがアマゾン(制作会社)の人に声をかけられる。
それから、集団as ifの舞台の出演者、
「トツゲキ倶楽部でカラサワさんの芝居みました」
と声かけてくれた人など、いっぱい。

出て、歩いていたらマイミクのT-182さんに声をかけられた。
駅まで、少し話す。
この芝居はダブルキャスト公演で、キャストが
全員男性、という回と全員女性、という回に別れている。
遊廓の話なので登場人物は全員女性。と、いうことはつまり、
男組の場合は、全員が男で女役をつとめているということで、
これはそれだけで、公演の大きな特長になりうる演出である。
それを女性たちだけで演じるということは、大きな見せ所を
外されて演じていることであり、大変だろうなあ、と
思ったことだった。

別れて新宿で降り、少し買い物の後、帰宅。
サントクで買った鰻蒲焼きとオクラおろしで夜食。
ホッピー三杯ほど。
今日の出演者のみなさんのブログなど検索してみる。
メイク落とした素顔を確認したかったんである。
その他、読書などして1時半、就寝。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa