裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

10日

火曜日

仏の顔もサド

 いつもは柔和な顔が、いったん地下室で縄を手にすると……。昨日遅かったので、朝、8時45分起床。昨日脱いだセーターやシャツが、脱衣カゴの中からもぷんと匂うほど焼肉臭い。二日酔い等はなし。朝食、豆を切らしたのでバジル練り込みパスタでバタースパ。それと冷コンソメ。新聞はバグダッド陥落を大々的に伝えている。昨日のトンデモ落語会、まったくギリギリのところだったのだなあと思わず笑ってしまう。それにしても、昨日高座で談之助が言っていたとおり、イラク軍の弱さよ。圧倒的な軍事力の差、というよりは推移を見るに、米イ双方の指揮官の現代戦における兵力運用の知識の差、ということにまとめられるのではないか。『花神』に描かれていた通りの戦争の展開図である。司馬遼太郎はやはりためになるなあ、と思ってしまう くらい、わかりやすい戦争であったように思う。

 快楽亭から昨日の朝、電話があった。『落語秘密クラブ』という新しい会を立ち上げて、こないだ第一回の公演をやったのだが、あまり客が入らなかった。テコ入れをして仕切り直しで再立ち上げしたいので、協力してくれとの件。梅田先生や談之助にも声をかけたというので、ハイハイ、喜んでと返事をし、打ち上げの席でもちょっとその打ち合わせをしたのだが、今朝、ハッと気がついたら、その会の日というのが、6月の7日。と学会の東京大会の当日である。こりゃアカン。しかし、私も談之助もそのことをコロリと忘れてしまっていたとは。あわてて談之助さんにメール。

 原稿仕事、ちょこちょこと。上記の件が気になって、なかなか進まず。昼飯も食うタイミングを逸したまま、2時になってしまう。『日経ネットナビ』のインタビュー取材のため、元・たこやき坂のインターネットカフェ『nesta』へ。ブロードバンドで東映の戦隊ものを見る、という企画。ビルの半分を覆うほどの大看板がかかっているこの店、もちろん知ってはいたが、自分がまさかそこに入ろうとは思いも寄らなかった。ビル自体はずいぶん古いもので、その中に奇妙にモダンな内装のネットカ フェが入っているのは何となく不釣合いで面白い。

 最初に写真を撮影する。カメラマンさんに、戦隊もの記事なんだから、ちょっとそれっぽく決めていただけますか、などと言われ、手を十時に組んだり、前に腕をつきだしたり、いろいろポーズを取る。いい年をして、と思わないでもないが、何となく楽しい。その後、インタビュー。ライターOさんの持ってきたICレコーダーが、録音した音声をそのまま文字化してパソコンに流し込めるというもので、“ハア、さすが新しいものは違いますねえ”と感心すると、“イエ、これももう古い型なんです”とのこと。いまだテープ起こし作業をシコシコとやっている自分が中世にでもいるような気になる。

 一応、今朝ネットでおさらいしてきたデータをもとに、戦隊もののざっとした歴史や、なぜこれほど長期にわたって人気を得ているのか、仮面ライダーなどのシリーズと違うところはどこか、初期と現在のシリーズはどこが違うか、などということを話す。メンバーの組み合わせに戦隊モノのミソはあるので、プロフェッショナルな戦士という設定あり、一般人が運命によって集められたものあり、高校の同級生という設定あり、トレンディドラマっぽい男女関係のグループあり、落ちこぼれ集団あり、とさまざまで、人間関係という、現代における最も根元的な問題の種々のパターンを、はからずも網羅している、というようなことを言う。インタビュー中、談之助さんから携帯で連絡。6月7日の件。

 それから実際にブロードバンドを見てみるが、戦隊ものであるのはゴレンジャーの翼仮面の巻と劇場版の鋼鉄剣龍の話、それとパワーレンジャーくらいで、他は仮面ライダーやイナズマン。あと、懐かし劇場とかで、深作欣二監督追悼、とか言って『ガンマ3号宇宙大作戦』をやっていた。大映作品だが成田三樹夫の『怪談おとし穴』の予告編が見られたのはうれしい。それから、『レッドバロン』は全話フィーチャーされているし、河崎実の『電エース』も見られる。編集部のTさん、T西さんにはこれが一番ウケていた。主人公は河崎実自身が演じているが、その弟が加藤礼次朗。弟の結婚式を主人公が回想するシーンで、実際の礼ちゃんの結婚式のビデオが使用されていたのにはひっくり返って笑った。

 なんだかんだ話がはずんで、インタビュー、2時間に及ぶ。昼飯を食い損ねたので東急本店地下でいなり寿司を買って、家で食べる。快楽亭から留守録あり、会の日時の方をズラして、5月24日にしたとのこと。ホッと一安心。K子からメールで、今日開田さんたちとまた吉祥寺の川上さんのお店に行く(狩猟をやっているマサさんの流れで、イノシシの肉が手に入ったという)のだが、それが7時くらいと聞いていたが、6時に早まったという。あわてて家を出て、こないだの巣鴨の写真をさくらやに 現像に出し、井の頭線で吉祥寺へ。

 K子と吉祥寺のJR中央口で落ち合うが、開田さんが原口智生さんにインタビューしてから来るというので、少し待つ。20分ほどで来て、川上さんと一行6人で、こないだの『はなさき』へ。奥の席が囲炉裏が切ってあって、そこにガスコンロを仕掛けて、田舎風に鍋を食おうという寸法。このあいだと同じ八寸、酢の物などが出て、ビールと酒。原口さん、以前より太ったか。いま撮影中の映画になをき夫妻が出演しているという話などを。今日見た電エースで、電エースの仮面(河崎監督が学生時代撮った自主制作作品で使ったマスクの流用)を制作中の原口さんの写真が出ました、というような話題をこっちはフる。あと、樋口監督のダイエットの話など。

 雑談しばし、やがて皿に盛られて出てきた猪肉は、普通の豚肉より数層倍厚い脂身部分と、赤いというよりは赤黒い赤身部分が層になって、ゴボウ、三つ葉、生麩などと一緒に、見事な食物美(いま作った語)を形成。これを、最初は割下ですきやき風に、それから味噌仕立てで味わおうという寸法である。ざっと煮えたものをとって、口に含むと、系統としては確かに豚肉なのだが、厚い脂身からくるイメージとはまったく裏腹に、あっさりとしてくどくない、しかし風味はまことに濃厚な、まさにイノシシ、という味わい。ちょっといたずらをしてまだ生煮えのものを齧ってみたが、猪肉というのはナマなうちは固く、煮えるととたんに柔らかくなる。

 すきやき風もうまかったが、味噌煮風がまた絶品で、上品な味噌の出汁に、イノシシの脂がからまって、このダブル鍋が、すんなりと腹におさまる。最後に、また割下の鍋をガスにかけ、残った出汁に葱を加えて卵でとじ、これをご飯にかけて。猪肉のダシがたっぷり出ていて、うまいのなんの。もう、腹の中にイノシシが丸々一頭、おさまったような案配。K子はヨウコさんと、皮ものを買う算段の話、いろいろ。なんだかんだで10時半くらいまで猪をパクつき続けていたことになる。帰宅、岡田さんにメールを出そうとしたが、パソコンの具合悪く、ニフティに接続できず。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa