東文研日記

唐沢俊一の“今”がわかる! オノマネの裏モノ日記ウラ日記

22日

木曜日

料理日記・11『鶏の悪魔風』

まだ二十代のころ、初めてニューヨークに行き、初めてレストランで
注文したメニューが『鶏肉の悪魔風』(ポッロ・アラ・ディアボラ)で
あった。悪魔、という単語に目が行って注文したのだが、やたらにおいしかった
のでカタコト英語で調理法を訊いたら、ヒスパニッシュらしいボーイが
「PRESS、PRESS!」
と身振り手振り入りで説明してくれたっけ。

インターネットなどのない時代で、それから“悪魔風”の意味を調べる
のにもちょっと時間がかかったが、これにはいくつか解釈があるようで、
1・丸鶏を開いた形が悪魔がマントを広げた姿に似ている
2・重しを乗せて焼くのが、何か残酷で“悪魔的”である
3・辛い味付けが地獄の火を連想させる
の、主に3つが“ディアボラ”の由来らしい。あと、パン粉と蜂蜜、
マスタードの取り合わせ料理のことも悪魔風と呼ぶ場合がある
らしいが、これは何で悪魔なのか、よくわからぬ。

わが家でやるのが、この“2”の悪魔風焼きである。ニューヨークで
食べたものとも、その後イタリアンレストランで食べたものとも
違う、ちょっと和風な味付けになっているが、基本の、
「マリネした鶏肉を重しをかけて焼く」
という部分は変わっていない。

鶏のもも肉を買ってきて、適当な大きさに整え、フォークで皮の部分
を突き刺して穴をブツブツ開ける。マリネの味を染み込みやすくする
ためである。

これに粒胡椒の挽いたのと岩塩をまぶしつけ、ジップロックに入れる。
それから、その中にリンゴのすりおろし、ニンニクのすりおろしを
好みの量、日本酒(わが家ではワインは調理に使わない。洋風料理
でも全て日本酒を使う)、オリーブ油少し、それと醤油少々を入れ、
ジップロックを閉じ、よく袋ごと揉んで、肉に味をなじませる。

その後、冷蔵庫に1時間ほど寝かせておく。私は味をうんと染み込ませ
たいので、3時間以上は置くが、これは好み。

フライパンに鶏を皮を下にして置き、火をつける。このとき、
最初から熱しておくことはせず、置いてから火を、ごく弱火でつける。
で、その上に、小振りの鍋に水を張って重しにしたものを乗っける。
これで、鶏から脂分が絞り取られ、その脂が熱せられて、皮をパリッと
香ばしくさせる。皮目の方を7〜8分、焼けたらひっくり返して2分
ほど(この時は重しは必要ない)。このやり方だと皮の方は真っ黒に
なるが、これはマリネしたソースが焦げたもので、肉の味に影響は
ないから安心するがよろしい。

鶏肉を取り出したら切り分けて皿に置く。フライパンの脂を捨て、
ジップロックの中に残ったマリネ汁をあける。酒と醤油をちょっと
足し、煮詰めてソースを手早く作り、鶏肉の上にかけて供するのである。
上記写真は添える野菜がなかったので、黒オリーブを乗っけている。

なるほど、フォークでつつかれたり、袋の中で揉まれたり、重しを
乗っけられて脂を絞られたり、鶏肉にとってはなかなか災難な
料理
である。重しを乗せて焼かれる、という姿がキリスト教の
聖人の殉教
みたいなので悪魔風、と言われたのではないかと思うのだが
どうだろうか。3世紀のローマの聖人ラウレンティスは捕えられ、
網焼きにされて殉教したのだが、最期の言葉が
「裏返して反対側もよく焼け!」
だったそうな。料理好きな聖人ではなかったかと思う(こういう話を
して家人に顔をしかめさせるのもいい料理のスパイスであります)。

なお、上記のマリネ汁は基本だが、ときおり、ここに酒粕だの、
味噌だの、またローズマリーの葉っぱだのを加えてバリエーションを
作ると楽しい。タバスコだの豆板醤だのを入れて、それこそ悪魔的に
辛くしてもかまわない。

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