裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

30日

木曜日

観劇日記41・『笑うゼットン』(トツゲキ倶楽部)

『笑うゼットン』

脚本:飛葉喜文
演出:横森文
出演:青井利佳、こまるゆい、佐竹リサ、高橋優都子、田中ひとみ、堀口幸恵、
前田綾香、横森文、市森正洋、北村清治、久保広宣、芹川翔、高橋亮次、仲澤剛志、
丸山修司、渡辺一哉、和田裕太

於:王子小劇場

5月25日(土)マチネ鑑賞

緊張感のはらむ南北朝鮮の国境線。そのすぐ近くに、日本のプレスセンターが設置
された。大手新聞五社と、フリーランスの記者合わせて十数名がそこに赴任を命じ
られ、両国の動きを監視していた。島流し同然の身だが、いったん戦争が勃発すれ
ば大スクープがとれる。だが、それは自分の身の危険も示している。戦争が起きて
欲しいという記者の本音と、起きてほしくないという人間としての感情の狭間に揺
れ動く彼ら。そしてある日、ついに銃声が国境の向こうで鳴り響く。そして、帝都
新聞の記者の一人が国境線を越えて行方不明になったらしいという噂が・・・・・・。

フライヤーのデザインがいい。ロシア・アバンギャルド風で、これまでのトツゲキ
の芝居のフライヤー中ベストのセンスである。欲を言えば美術全部をこのスタイル
で通して欲しかった。

トツゲキ倶楽部の芝居はいつも勉強になるが、今回は舞台を劇場の真ん中において、
前後から客席がそれをはさむ、という形式をとっていた。
これをやると、観客からすると会話している人物同士の、片方の顔が見えなくなる
場合がある、という欠点が生じる。普通の芝居では演出家は出来るだけこういう配
置を避けるものだが、今回はあえて、そういう位置での対話シーンを多く設定して
いたように思えた。

なぜかと推理すれば、ひとつにはひいき役者の顔がよく見えなかった客がもう1回、
反対側の客席で観てみようという気になるのをねらってのこと(笑)、そして、こ
の芝居のテーマである、対立した人間(と、国家)の関係は、所詮一方の立場から
しか外側からはわからないものである、ということを、舞台上の配置によって表現
しているのではないか。全てをわかりやすく、観客に理解しやすく、見やすくお届
けするだけが芝居ではないのだ。

例によって役者たちが達者である。17名に及ぶ登場人物たちが入れ替わり立ち替
わり登場し、状況の説明がほとんど会話でなされるが、話が混乱せず、退屈もしな
いのは、役者たちのキャラの立ち具合がしっかりしているからである。いつも印象的
な主人公の高橋亮次がちょっと今回はおとなしかった代わりに、女性陣、ことに高
橋優都子の硬の演技と前田綾香の軟の演技の対比が際立ち、ダジャレ大好きカメラ
マンを演じる田中ひとみも存在感があった。一方、渡辺一哉、久保広宣、市森正洋
たちレギュラー陣は相変わらず面白い。勝手に演技プランを立てているようで、見
事にストーリィの中にマッチしているのがさすがである。ベテランの強みだろう。

ただ、その分、脚本のリズムが単調で、クライマックスもすべて会話で状況を説明
する、という構成がちょっと芝居初心者には(観客席をみたらかなりいたので)辛
かったのではないかな、と思った。さきほど主人公の高橋亮次がおとなしかったと
言ったが、彼の立ち位置が主人公というにはちょっとドラマの中心に関わらなさ過
ぎ、という不満もある。

なにより、このタイトル『笑うゼットン』にからむ主人公の過去のエピソード、つ
まり、絶対無敵のヒーローと彼が子供時代思っていたウルトラマンがゼットンに倒
されてしまったことがトラウマになり、それ以来、強大な力を持つ相手には所詮か
ないっこない、という弱気な人間になってしまう、という設定にちょっとひっかかっ
てしまった。ウルトラマンがゼットンに倒されるという設定を全く知らずにテレビ
を見ていたというのだから、これは初放映時のことであろう(再放送以降だったら
学校でクラスじゅうの話題になる、というような意外性はないはずである)。この
最終回の放映日が1967年4月9日。つまり、今から46年前。その時期に小学
生だったのだから、現在では50代半ばであろう。つまり、私とドンピシャ同世代
だ。主人公・イカリの年齢はどう見ても30代半ば、せいぜい40そこそこ。年齢
が合わない。

まして、この芝居の設定は近未来(憲法が改正され、国防軍が生まれている)であ
る。主人公は60代の老記者でなければならない。私自身、ウルトラマン第一世代
として、「ウルトラマンより強い」ゼットンの登場に興奮した記憶を持つ。高橋演
じるこの主人公に共感を感じるだけに、この時代設定の瑕疵は残念だった。

トツゲキ倶楽部には以前1回役者として出演したことがある。今回もお呼びがもし
かかり、定年間際の老記者の役で、ゼットンのことを語れれば・・・・・・いやいや、ダ
メダメ。こんな大量のセリフを憶えなければならない芝居への出演など到底ムリで
ある。役者さんたちの記憶力って、すごいなあ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa