裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

17日

木曜日

観劇日記・30『お預かり致します』(Two−Point)

『お預かり致します』
Two−Point皐月公演
作・演出/言成三也
出演/中村優希 大岡綾子 水田裕之 助川玲 依田香織 馬淵良介 西方佳波
   板谷美霞 斎藤航 宗吉
協力/有限会社岩田質店
於/高田馬場ラビネスト
2012年5月13日 観劇

2011年11月に旗揚げ公演を行ったばかりの劇団Two−Pointの第二回
公演。

第一回公演は落語をネタにした『三枚起請』だったということだが、
二回目になる今回は浅草の質屋を舞台にした人情ドラマ。

その質屋は変わった質屋で、質草の価値には関係なく、その品物にまつわる
話を客に語らせ、その質草を預ける理由に納得がいくと金を出す。

父親から送られたある品物を持ってそこののれんをくぐった裕子は、
どうしてもそれを預ける勇気がわかない。そうこうするうちにも、お客が
何人も入ってきて、その品物にまつわる話を始める。そこで浮かび
上がってくるさまざまな人間関係。
裕子はやがて、自分もその品物に関する話を主人にしはじめる……。

きっちり作られたお芝居だな、というのがまず第一印象。
冒頭に出てくるギャル風の女の子の長台詞がきちんと入ってよどみなく
語られるのに感心する。このあと、この女の子役の西方佳波は、まったく
キャラが違うお嬢様の役(こっちが本役)で登場するが、この冒頭の役は、
観る方に
「あ、稽古を重ねているな
という安心感を与え、この後の芝居に対する、観客の警戒感(入場料に見合う
ものが観られるのか、という)を大きく緩和する。コンビ役の助川玲も合わせて
大きく芝居全体に貢献する演技だった。

オムニバス形式でいくつかのエピソード(ほとんどが男女・親子関係)が回想
形式で語られるが、語り中心になるために、場面に変化があまりなく、また、
思い出の品を質草にするまで、という話なのでどれもが必然的にアンハッピー
エンドになる話で、ちょっと単調なストーリィ展開になってしまっている。
冒頭のコギャルの相手の男を途中でもう一度登場させるなどして、アクセントを
(私であれば)入れるところだが、聞いたら演出の言成三也は、冒頭の
コメディタッチをも相当、やりすぎないよう駄目を出したそうだ。
話に波を作るのではなく、哀しい人間関係の、その思い出となった品の
行きつく先として、この質屋を想定しているのであろう。それはそれで
ひとつの演出意図として納得できる。

最後の、主人公である裕子(大岡綾子)のエピソードを含めて、飛び抜けて
印象的な話があるわけではなく、また役者陣もみな、きちんと稽古を積んだ
ことはわかるが、群を抜いて達者だったり華があったりする人がいるわけでも
ない(それを押し隠す演出だったのだろう)。しかし、それゆえに舞台に
にじみ出るのはしみじみとした情感、静かな緊張感だ。

当パンにあった演出の言葉に
「これだけ演劇というものが氾濫している現状で、何を提供できるか」
という一文があった。エピソードの奇抜さ、キャラの際立ちということを
ほとんどの劇団が指向している中、敢て逆の道を行っているとすると、この
芝居はかなり戦略的なものだという気がする(初演の作風はまったく異るそう
なので、こっちも観てみないとわからないが)。

ただ、この質屋がファンタジーの存在ではなく現実に存在するものだとすると、
ある意味、主人が神の目を持つ審判官の役割なので、
「いったい経営はどうなっているのだろう」
とか
「この親父は何者で、なんでこんな酔狂なことをやっているのか」
という疑問が頭に浮かぶことも事実。ファンタジー的要素をあえて加味しない
なら、そこらへんの説明的描写も必要ではないかと、ちょっと思う。

さきほど名前の出た助川玲くんは、以前『あぁルナティックシアター』の若手
だった役者。冒頭の女のヒモ男と、本役の、売れない画家の役の二役だが、画家
の役も夢を明確に持ち続けているが故に、その夢の消失と共に次第にすさんでいく
青年をきちんと演じて、芝居に溶け込んでいた。かつての仲間が新たな
境地へ歩を進めた
ことを確認できて、何か嬉しい気持ちになって
劇場を後にしたことであった。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa