裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

22日

月曜日

銀座宦官娘

 秦に仕えて宦官娘 ちょいとチンコも切りたくなるわ(高峰秀子・歌)。朝、舞台初日を控えて緊張している夢を見る。昨日うわの空の舞台を見て、すぐこういう夢を見る。フロイトも何もあったもんでなし。朝食、ソバ粉うす焼き、昨日のボルシチの残り(今日はジャガイモをレンジで蒸かしてから投入)。フジリンゴ。朝食後、ゆうべ飲んだ帰りにカバンを忘れてきたことに気付く。虎の子であればいいが、タクシーだとしたら、領収書も受け取っていないので、探すのはちと困難。中にはと学会本でとりあげる本が入っていた。あちゃ、という感じ。久しぶりに酔って忘れ物をした。これまでは生酔い本性違わずで、まあ無事だったんだが。稀覯本ではないので、再度手に入れることは可能なのだが、この本に関する原稿を三分の一ほどもう書き上げている。これは一時中断して別の本にかからねばならぬ。ちと憮然たり。

 服薬、日記つけ、入浴、洗顔、歯磨き、如例。注文した常用の漢方薬が実家から届いた。小青龍湯はさっそく新しいものを服用するが、黄連解毒湯はまだ三日分くらい残っている。同じ分量を注文し、同じように併せて服用しているのに、なぜこのよう な差が出るのか、不思議。

 阿部能丸くんから電話、週末の舞台の件、行く日を伝える。しばらく芝居談義、映画談義。時代劇談義にもなり、阿部さんも出た中野貴雄監督の『犬神〜月光に狂いし者』はじっくりと見直してみると凄い作品だよねえ、というような話。いま、彼の脚本の作品が持ち込まれている製作会社でも、その面白さが評判になって、中野貴雄って誰だ? という噂になっているそうである。誰だというのがちと、情けないが。阿部さん客演の立川志らくの舞台、下町ダニーローズ第二回公演『東京どん底物語・未来ポリスマンの横恋慕』の情報は下に貼っておく。まだ面白いかどうかはわからないが、少なくとも第一回公演『ブルーフロッグマンの憂鬱』は、出演陣の好演・熱演も あり、意外なくらいに楽しめるものだった。
http://www.cd-v.net/shiraku.html

 東急ハンズに出かけ、来年のカレンダー、歯間ブラシなど買う。カレンダーは3年連続で使っていた、2タ月並列式のものが無くなっていた。仕方なく別なのを買うがどうも困る。日本という国は商品の選択肢は多いが、気に入った商品を見つけてもそれがいつまであるかという保証がない。昼は茶漬けで軽く。冷蔵庫の中のシオカラ、シソ昆布を片付ける。年末らしくてなかなか良い昼飯。原稿、仕方なく別のもので書き出して、いろいろ書き悩む。こないだコメントを書き送った『AERA』と、インタビューに答えた『FLASH』が共に届く。アエラの方は『もえたん』について、フラッシュの方はお尻の魅力について(座談会形式に構成されている)。何でも屋の面目躍如と言えば躍如、文化人として節操がないと言えば節操がない。しかし、文化の端っこにあるものを論ずる、というスタンスであればどちらも当てはまる。

 今日も日刊スポーツ(北海道版)と、週刊現代から電話でコメント求められる。日刊スポーツの方は北海道を文化発信地にするための提言というもの、現代の方は初夢企画でこんな女性とベッドを共に、とかいうアホ記事。この落差は何。現代の方に、tATuの二人と3Pでベッドインしようとしたとたんにマネージャーが出てきてドタキャン、というアホ話をしたら気に入ったようでゲラゲラ笑っていた。これはどう考えてもまっとうな評論家の仕事ではナイ。でもこっちの方が面白い。

 3時、時間割にて河出書房Sくん。顔を合わせるのは4ヶ月ぶりとのことで、もうそんなに経ったか、と仰天する。懸案となっている次の本の企画、やや内容を具体的に進める。こっちは最初のアイデアはアホらしかったが、進めていくうちに、いかにも河出らしい、アホの中に文化的な匂いのするものになってきた感じ。Sくんはベギラマと中野貴雄の才能リスペクトだったので、ベギちゃんの結婚を報告。そこから中野監督ばなしになり、Sくん、先日見たという中野さん脚本の『発情家庭教師・先生の愛汁』(女池充監督)を“大傑作”と絶賛。キネ旬では切通理作が国沢実の作品と比較してそっちの方を褒めていたが、イヤ女池作品の方が絶対上です! とのこと。 何か今日は中野賛美デーになってしまった。

 5時半、やっと一本、原稿アゲてメール。K子から、バッグは虎の子にあったという連絡。ひとまず安心。こうでんさんに能登でお世話になったお礼にと、某記録ビデオを送る約束がしてあり、そのダビング作業をしていたのだが、今日やっとそれを行い、確認してみたらまったくダビングされてなかった。配線をこないだいじったとき に間違えたか。

 7時、家を出て新宿へ。鳥源で、ポーランドから一時帰国したゲラッチさん歓迎会パート2。3まであって、3はチャイナハウス。今日はわれわれ夫婦とI矢くんだけの小規模な集まり。話を聞いてみると、彼女は世界のいろんなところを渡り歩いている感じである。外人の旦那を持った日本人女性というと、マークス寿子だのクライン 孝子だのがすぐイメージされるが、そういう人たちとは全く感じが異なる。

 ポーランドのボルシチの話などもする。あっちのボルシチは、ビーツのみじん切りだけで、ほとんど実がないそうである。いろいろ野菜や肉を入れるのはウクライナ風なんだとか。料理の皿についてくるパセリ(パースリーと発音するあたりはやはり外国暮らしだ)を喜んで食べていた。あっちでは三つ葉が手に入らないので、親子丼など作ったときにはパセリで代用するとか。また、サトイモがジャパニーズ・ポテトとして売られていたが、ジャガイモの数倍の値段がついていたとのこと。あるだけで凄い。それでも、思わず買ってしまったら、店の親父に“どうやって料理するのか?”と逆に訊ねられたとか。『壁際の名言』にサイン求められる。K子は芦辺拓さんから送られた『殺しはエレキテル』を読んでいるとのこと。挿絵が唐沢なをき。兄弟揃って芦辺さんとは縁がある。

『鳥源』のお父さん、私の顔を見て“あ、先生、こないだはどうも、そう言えばラジオ、TBSの聞きました、ええ、こないだの落花生はおいしかったです、あ、お連れさんはもう二階にいらっしゃって、いや、最近はご活躍で”と、かなり混乱の模様。言うことがいっぱいあってこんがらがったのであろう。ビール二本に日本酒で、頭ははっきりしていたが、体がかなりクタッとなった。疲れがたまったか。帰宅、MLでコメントとかがついているが、めんどくさくて何も書き込まずに寝る。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa