裏モノ日記

裏モノ採集は一見平凡で怠惰なる日常の積み重ねの成果である。

3日

土曜日

年寄りのサイアミーズ

 金さん銀さんもくっついていたんじゃないか? 4時ころ目が覚め、フトンの中で『畜妾の実例』読了。昨日の日記に涙香の正義感と書いたが、解説の伊藤秀雄氏は、“涙香の関心半分、あとの半分は売らんかな主義の企画”と書いている。この執念を見るとそっちの方が正解だろう。裏モノの元祖みたいな男だったのだな。当時の女性のしいたげられていた状況を伝える資料とも言えるが、中にはしたたかなのもいる。
「大日本生命保健会社長、憲政党常務委員堀越寛介は牛込区若宮町二十七番地寄留、茨城県古河町平民日下寛の幼女竹内みち(三十六)(実父は同区築土前町按摩杢市)を妾とし、小石川区小日向台町一丁目九番地に居住せしむ。みちは栃木県選出前代議士横堀三子(し)の妾なりしが、同人が選挙の結果財産を蕩尽したるより一昨年八月堀越に見返りて私通し、今の住宅を千八百円にて購わせ皿に横堀へ寄附かざるより紛紜(ごたごた)を生じ二、三百円の金を出して漸く事済みとなる。その後堀越の妾となり今の宅に住し昨年中家屋宅地をみちの名義に書換え、本年四月中電話を架設し本妻となりたる旨会社員へ披露をなしたるより北埼玉にある本妻は大に立腹し同人の実兄小室良七は出京して堀越に怒鳴り込み目下尚捫着中なり」
 ・・・・・・これなんか、好きな話だなあ。朝8時起き。ポケットブレッドに野菜はさんで。それとデコポン。

 鶴岡から電話。昨夜のロフトプラスワンのこと。大層な入りで、彼の個人スタッフのG氏と、ロフトの加藤くんが、“なにしろ彼のイベント、客が5人てときから見てますからねえ”“とうとうここまで来たんですねえ”としみじみ話をしていたというのに苦笑して“まるで俺がロフトどまりの男みたいじゃないですか”と言う。私は、今後も5人の会があってもいいと思う。要は、ファンが、話を聞きたくなったときにいつでも聞ける場を確保しておくことだ。タニグチリウイチの裏日本工業新聞にそのレポートが速攻で載っている。壇上で彼が伊藤剛系の悪口を言ったことをボカして書いていて(私の悪口言ったことはちゃんと書いてあるので不公平なのだが)、それを子供っぽいと思っているようだが、世の中のエッジというものは対立構造の中で最もシャープになる。と、いうより、対立しあわないもの同士の関係というのは見えてこないのが一般なのだ。タニグチ氏のようなカルチャーマニアならともかく、世間一般の人の目をマンガ評論などという、さしてニーズを求められていないものに向けるには、まず派手にケンカしてみせる、というのがひとつの手なのである。異なった立場の評論同士が、“クロスしなくても良いから並列される形で参照できる(『裏日本工業新聞』より)”ような環境というのは、一見理想的に見えて、実は評論業界を腐敗させやすくする。ヌカミソは時々かきまぜてやらねばならないのだよ。

 11時、芝崎くん来宅、居間のビデオ整理の棚設置にかかる。神山町にある家具屋の彦政(居酒屋みたいな名前だな)に、注文してあったボックスを取りに行くが、親父がまだ寝ていて、車を出してくれない(80いくつのお父さんが出てきて、“息子が真面目に商売しなくてすいません”とあやまったそうだ)ので、台車でガラガラ運んできた。窓際の棚にただ積み上げてあったビデオをやっと整理できる。今のガラス窓の半分が埋まって暗くなるが、コレクターにとって日当たりの悪さは日焼け防止になるので、湿気にさえ気をつければかえってありがたい。ケース自体が年月のせいで劣化してボコボコになっているものもあった。

 芝崎くん、大奮闘でカラーボックス12台を組み立て、それを耐震金具でつなぎあわせ、突っ張り棒をかまして、棚を作っていく。床に散乱していたビデオ、LDの類がきちんと収められていくと、まるで新宿のビデマに行ったような感じになって、なんかワクワクしてくるのはコレクターのサガだな。1時、中野貴雄監督来宅。ダビング頼んでいたビデオをわざわざ持参してくれる。感謝。K子と4人で昼飯に、NHK前の酔香楼。定食(カニと豆腐の煮物)。例によって監督と、“怖くない階段”とか“変な日本語”ネタ応酬。
「知り合いのピンク女優が学生時代、自主映画の撮影で幽霊がでるという旅館にみんなで泊まったときにですね、同級生の男が、“幽霊がなんだ、祟るなら祟ってみろ”と、窓からチンチン出して振り回して叫んだんだそうですよ。そしたら“その友達、祟りなのか、東京に帰ってから高熱を出して寝込んだんです”って話なんですが、クライマックスがせいぜい熱出したくらいなんで、その前のチンチン振り回したところくらいしか記憶に残らないんですね」
「ある古い旅館に泊まったら、落武者の幽霊が出てうなされた。翌日、それを宿の主人に聞いたら、“やはり出ましたか。実は十年前、あの部屋で若い男女が心中したんですよ”という話を・・・・・・」
 私も、だいぶ前にUFO研究家(自称)の某氏のエピソードとして正狩炎から聞いた話を。
「某氏は若いころ宇宙人と出会い、彼らのメッセージを地球に伝える使命を帯びた大事な人ということで宇宙人に厚遇されているんですね。ところで、某氏は釣りも好きなんで、よく千葉の方へ磯釣りに行くんですが、ある日、身投げした女性の遺骸を釣りあげてしまい、警察の検死に立ち会わされたりして、その女性の顔が頭に焼き付いて離れなくなってしまった。宿は民宿の離れだったんですが、その夜、氏が寝床につくと、女性の髪の毛が障子に当たる、サラサラ、サラサラという音がする。やだな、お礼に来たのか、それともうらみごとを言いに来たのか、なににしても部屋に入ってこられたらイヤだな、と思って布団にもぐりこんでふるえていたんですが、ずっと部屋の回りを回っているばかりで入ってこないうちに夜があけた。起きてみると、目の前に宇宙人がいて、“ご安心ください、われわれが守っているので幽霊は部屋の中には入れません”と語ったとか」

 あとで芝崎くん、しみじみ“中野さんって面白い方ですね”・・・・・・いや、もうあれは面白いという段階を超越していると思うぞ。

 湿気と気圧で飯食ったあと、やはり体調極端に低下。芝崎くんにまかせて、階下で仕事する(うちはメゾネットなので居間が二階にある)。5時半ころ、棚、完成。乱雑を極めていた居間が非常にスッキリするが、これもどれだけ保つか。バイト代を支払って、芝崎くん帰ったあと、ビデオの分類をしばらく。8時、船山でK子と待合せて夕食。今日は満席で、向こうのお勧めを。そしたらやたら豪華で、鮎、岩ガキ、ハモちりと、夏の味覚満載。酒が進みすぎた。お値段もちょっと豪華。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa