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2012年9月23日投稿

いつも画面の隅で 【訃報 ウィリアム・ウィンダム】

8月16日死去、88歳。

スター・トレック(宇宙大作戦)『宇宙の巨大怪獣』(1967)で、巨大惑星破壊マシーンに自分の艦と乗組員全員を殺され、たった一人生き残ったデッカー艦長。彼は、同じく惑星破壊マシーンに襲われ、エンタープライズ号に帰れなくなったカークに代わり代理艦長を務めるが、マシーンへの復讐心と恐怖心で、精神が不安定になっていた……。オリジナルシリーズの中でも印象深いゲストキャラであるデッカーはあちらのファンには人気のキャラクターらしく、このエピソード放映の12年後にスター・トレックが映画化されたとき、メイン・キャラクターとして登場したウィラード・デッカーは、このデッカー艦長の息子、という設定だったそうである。

このデッカー艦長を演じたのがウィリアム・ウィンダム。アメリカを代表する脇役スターである。私が脇役好きになったきっかけである名著『傍役グラフィティ』(ブロンズ社・1977)では“ウィリアム・ウィンドム”名義で(綴りがWINDOMであるため)、写真も載っておらず、“素晴らしい名前の響きなのに、それと裏腹に顔や役柄が全く記憶に残っていない”という風な書き方をされていた。……そんなことを書かれるとつい、気になって、それから映画やテレビのキャストのロールを見ると、つい、ウィリアム・ウィンダムの名を探してしまうようになった。

案外早く見つかって、名前と顔が一致したのが『刑事コロンボ』の再放送。第一作『殺人処方箋』(1968)における犯人、ジーン・バリーの友人の検事で、バリーに疑いをかけはじめたコロンボを事件からおろすように、警察に圧力をかける役だった。

コロンボではもう一作、ロディ・マクドウォールが犯人役の『死の方程式』にも出演。このときはスペシャル・ゲスト・スター扱いだった。マクドウォールの父親が経営する化学プラント会社の専務で、相談役。父親を殺したマクドウォールにより首にされてしまうが、最後、コロンボが事件の謎解きをするロープウェイの中にまでつきあっていた。この作品がアメリカで制作された1971年に、ウィンダムはマクドウォールともう1本、映画でつきあっていて、それがマクドウォールが猿メイクで主人公を演じた『新・猿の惑星』。ウィンダムは未来からやってきた猿たちを受け入れるかどうか悩む、アメリカ大統領の役だった。ちなみに、この時の3人(3匹?)の猿を演じたのはマクドウォール、キム・ハンター、サル・ミネオ。マクドウォール以外の2人もコロンボシリーズに出演しております。どのエピソードかわかるかな?

この頃のウィンダムはなるほど、アメリカ人の中年の典型的顔つきで、『傍役グラフィティ』で“記憶に残らない”と言われても仕方ない感じだった。オバマ大統領のずっと以前、アメリカ初の黒人大統領の姿を描いたジョセフ・サージェント監督の傑作『ザ・マン/大統領の椅子』(1972)での人種差別主義者の演技もよかったが、個性ではこの映画で同じ差別主義者を演じたバージェス・メレディスなどの方にどうしても一籌を輸すのは否めない。しかし、ウィンダムの役者としての武器は、その“めだたなさ”だったろう。ブロードウェイ出身らしい卓越した演技力で、善人から悪人まで、どんな役でもこなし、かつ、主役の演技の邪魔をせず、地味に画面の端で作品を引き締めている。個性派だけではドラマは成り立たない。ウィンダムのような、地味な実力派も絶対必要なのである。

もちろん、彼だって主役を務めたこともある。コメディシリーズ『My World and Welcome to It』(1970)で、彼は主人公であるマンガ家、ジョン・モンロー(実在のマンガ家/作家、ジェイムズ・サーバーをモデルにした)を演じてエミー賞まで受賞している。……しかし、それほど評価されながらこのドラマが2クールしか続かなかったのは、やはり彼には脇の方が似合っているからなのだろう。

そんな彼だから、出演作はベラボウに多い。『ボナンザ』『バージニアン』『ガンスモーク』といった西部劇から上記『宇宙大作戦』『インベーダー』『ミステリー・ゾーン』『超人ハルク』のようなSF、さらに『コンバット』『スパイ大作戦』『0088/ワイルド・ウエスト』『鬼警部アイアンサイド』『刑事コジャック』『署長マクミラン』『地上最強の美女バイオニック・ジェミー』『特攻野郎Aチーム』『エアウルフ』『ナイトライダー』など、彼のゲスト出演していない番組を探す方が難しいくらいだ。声優としても、『バットマン』や『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』などのアニメに声をアテている。しかもその間にブロードウェイの舞台や、朗読劇なども行っているのだ。芯から芝居が好きなのだろう。

そして、そのような、主役を立てる達者な脇役としてのウィンダムの特質を最も生かした当たり役が、人気シリーズ『ジェシカおばさんの事件簿』(1984〜1996)のハズリット医師であった。なんにでも首を突っ込むジェシカおばさんに引っ張られて事件に関わってしまう、タッパー保安官とのおじさんコンビで、この番組は12年もの長寿番組となり、これでウィンダムの顔はあまねく知られることとなった。ついに彼は全世界に記憶される俳優になったのである。

大スターやアイドル、人気俳優の顔や演技を見るのは楽しい。だが、彼のような脇役を、
「あれ、この人、こんな番組にも出ている」
「ここにも、こんな役で出ている」
と探すのも、ドラマを見るときの秘かな楽しみのひとつである。ウィリアム・ウィンダムは、我々に最もそういう楽しみを与えてくれる俳優だった。

R.I.P.

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