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2012年2月29日投稿

書き込んできた男 【訃報 猫が好き♪】

元NIFTY-Serveの旧会員の方からの報告で、パソ通時代、著名会員
であった「猫が好き♪」さんが26日に亡くなったと知った。

53歳、食道ガン。自身のブログというのも、亡くなって初めて
のぞいてみたが、病院に薬を取りにいったら緊急入院ということに
なって、自分でもあれよあれよという間の死であったらしい。
50代での死というのは死の中でも一番苦しい、とかよくおどかされる
(病気をはね返せるほど若くもなく、素直に死出の旅路につけるほど
肉体が弱ってもいないので長引き、苦しむ)のだが、彼の場合、
一週間ほどの入院で、さほど長い闘病もせず逝ったようで、そういう
意味では幸せだったかもしれない。ただし、ニフ時代の代表的論争屋で
あった彼のイメージから言えば、もう少し死という現実にあらがうの
ではないか、と思いはしたのだが。

NIFTY-Serveなんて言っても、もう若い人には昔語りであるが、当時
私はFCОMEDY(お笑いフォーラム)の『裏モノ会議室』の議長を
つとめており、彼はFENV(環境フォーラム)の人間だった。
お笑いと環境ではあまり接点がないように思えるが、裏モノ会議室
というところは森羅万象ありとあらゆるところにツッコミを入れる
のを方針としており、反捕鯨とか環境保護に茶々を入れると、どこから
嗅ぎつけるのかやってきてはやかましく反論を書き込んでいた。
そのうち、何が気に入ったのか、定期的に巡回しては、環境とは関係
ない話題にもクチバシをはさんでくるようになった。かなりの博識
ではあったと記憶する。

裏モノ会議室の基本姿勢は「発言は全てネタ」というもので、その
ククリの中で鬼畜だったり不道徳だったりの意見もオールOKの
ルールを作った(よほどのときは議長権限でNGを出したが)。
当時のパソ通状況(パソコンを使える者同士というコーホートが
存在した)の中でかなり面白い発言者が集り、ニフの会議室の中で
ちょっと話題になったが、そのシャレのルールがわからない、と
いうか、理解しようとしない書き込み者もいて、その中の一人が
「猫が好き!」氏だった。

環境保護、反捕鯨などは彼の中では冒すべからざる聖域だったの
だろう、捕鯨支持、あるいはクジラおいしいよね、というような
意見がアップされるとしつこくいつまでもそれにからんで、注意して
も聞き入れなかった。
「鯨肉に日本人が愛着を感じるのは学校給食で刷り込まれた世代だけ」
などと主張して、おいおい、西鶴の時代から(もちろんそのずっと前から)
食っているぞ、と反論したこともあった。そんなことを言うから若いのか
と思っていたら、亡くなって年齢を見て、ほぼ同年代だったのに驚いた。
彼の演芸観、あるいは宗教観の吐露された意見もいくつか目にしたが
環境論が進歩派的だったのに比べると、案外の保守派だったように
思えた。

……まあ、話の流れを無視するという悪癖で、議長職からすると
あまり好ましい常連ではなかった人物ではあったが、しかし、
会議室、というよりはパソコン通信によるコミュニケーション、
それ以前の対人関係に問題があるのではないかと思える他の
要注意人物たち(これも腐るほどいた)に比べると、はるかに
常識人という感じはあった。ごく初期からのパソコン通信ユーザーと
して、パソ通という場を愛し、そこでのやりとりにある種“淫していた”
からであろう。その場で言う意見はムードやノリを壊すことがまま、
あったが、フォーラム、会議室という場そのものの否定には決して
いたらなかった人物であった。

それだけに、パソ通というものの黄金時代が終わり、インターネット
に移行する、という時代の流れに抵抗感があったのだろう。
NIFTYがパソコン通信サービスを廃止したあたりで、すっかり
過去の人になったというイメージがあった。……もちろん、これは
ハンドルネーム「猫が好き♪」氏のことで、彼が別名、あるいは
本名で何をしているか、それは知るよしもなかったが。

そう言えば本名も知らないし、本職も知らない(映像作家、と名乗って
いた時期があったらしいがよく覚えていない)。ヘビースモーカー
であったことは聞き及んでいたが、死因に何か関係があったのか。
亡くなったあと、彼のお子さんという人が挨拶と告別式の書き込み
を行っていた。それで家族がいたのか、ということも知った。
ネット上でのつきあい、というものの不思議さである。

パソコン通信の時代、というものも次第に霞の向こうになりつつ
ある。猫好きさん(うちの会議室ではそう呼んでいた)の死はその
象徴のひとつだろう。
ご冥福をお祈りする。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa