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2012年1月8日投稿

融合を目指した男 【訃報 林光】

1月5日、死去。80歳。昨年9月自宅の玄関で転んで頭を打ち、意識不明が
続いていたという。

大学生のころ、千石の三百人劇場で大島渚の『忍者武芸帳』(1967)を
観て、主題歌が非常に印象に残った。軽快で勇壮だが、どこかアニメソング調
でもある。ふと、曲調が子供の頃よく歌っていた『バンパイヤ』(1968)
の主題歌とソックリだ、と気がついて、(まだ、パソコンで簡単にググること
などできない時代だったから)わざわざ国会図書館まで行って調べて、二つの
曲が同じ作曲者だと知って、深い満足感を覚えたものである(この二作、どちら
も創造社の俳優たちが多く出演しているとか、監修に福田善之が加わっている
とか、共通点が他にもいろいろある)。
http://www.youtube.com/watch?v=He48iBPpuRY&feature=player_embedded

で、その作曲者が、林光だった。
うっかりだったが、そんな苦労して調べたのに、私の大河ドラマテーマ中、
ベストと思っている『花神』の作曲者の林光となかなか結びつかなかった。
勇壮・雄大なメロディの多い大河ドラマのテーマ中、『花神』のテーマは、
殺伐な幕末のドラマとは思えないほどゆったりとして温かく、ちょっと寂しげ
なところもあり、しみじみと心に染みる名曲だったために、こっちは聞いて
いて、イメージが直結しなかったのだろう。
http://www.youtube.com/watch?v=y0LuczMCHRU&feature=player_embedded

60年以上にわたって作曲の世界にいた人であるが、その成果の多くは舞台
の上にあった。斎藤晴彦(『ロボット8ちゃん』のバラバラマン)などと
組んで、日本に、日本語によるオペラ、オペレッタを定着させるべく、
活動をしてきたのである。シェイクスピアの『ベニスの商人』を長崎の話
に置き換えたミュージカルを、NHKで観たことがあり、大変に面白かった
ことを覚えている。演劇にハマるのがもう少し早かったら、通い詰める
ようになっていたかもしれない。もっと積極的に追いかければよかったの
だが、思想的には革新系・労組系の人であり、それも変な色眼鏡をこちらに
与えていたのかもしれない。

林光の曲のイメージをひと言で表すとしたら、ちょっとバタくさい、日本調の
西洋楽曲という感じであるが、そのイメージは、ミュージカルにはあまり
向かない日本語と西欧楽曲との融合を目指していたから、ということがいえる
だろう。

他に子供向け、家族向けの名曲も多く残しているが、多くが未聴なのが
残念である。……と、思ったら、凄い曲を覚えて口ずさんでいたことを
思い出した!
なぜかウィキペディアの作品歴の中にも入れられていないが、
谷川俊太郎作詞・熊倉一雄歌のこの曲、これも林光だったのであった。
http://www.youtube.com/watch?v=c-ctneSZMJs&feature=player_embedded
この愛すべき歌を、差別意識云々で葬り去ろうというなら、それは
悲しいことだ。
そこにあるのは、作詞家、作曲家ともども、“日本語の持つイメージ”を愛し、
その響きと創造力の広がりを、歌曲というものの中でより楽しめるものに
しようという、その語感力、なのである。

日本語というものを愛し、それを曲に乗せ続けた類い希な才能に、
敬意を表する。

R.I.P.

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