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2011年7月4日投稿

第4回ルナティック演劇祭 決勝戦終了!

10劇団の参加を以て争われた『第4回ルナティック演劇祭』、
予選から数えるとほぼ一ヶ月の長丁場でしたが、3日に無事、
終了いたしました。
http://www.tobunken.com/news/news20110606213503.html
↑予選の詳細はここで。

『劇団カツコ』
『東京バンビ』
『Please Mr.Maverick』
『すこやかクラブ』
の四劇団によって争われた決勝戦ですが、
優勝は『Please Mr. Maverick』(『僕だけの楽園をお願い博士
+Premium』)
に決定しました!

二位の『劇団東京バンビ』(『男子と女子とときどき鹿と』)
の差は15ポイント。と、言ってもよくわからないと思いますが、
決勝戦での審査員に与えられたポイントは15ポイント、分割不可。
つまり、審査員の中の一人の一票でMaverickの優勝が決まったわけで、
それ以外の集客票、スタッフ票等においてはぴったり互角、だったのです。

アニメ、SF、マンガといった世界を躊躇することなく演劇の中に取り
入れ、オタクの性やエコロジー、正義とは、という問題意識を作中で
語りながらも観念論にならずギャグとして昇華していっているストーリィの
練度の高さがMaverickの高評価につながったのは確かですが、しかし、
はっきり言えば芝居の完成度だけならば東京バンビの方が上だったと
思います。『僕だけの……』には冗長な部分がかなりあり、笑いの持続性
の点でも、そのポイントだけで比べれば多分、バンビの方に軍配が上がった
のではないでしょうか。それは今回の演劇祭の最優秀脚本賞と演出賞の両方を
東京バンビが独占したことでもわかると思います。事実、同じ芝居で勝負した
予選では、バンビの方がかなりリードしていました。

では、何でMaverickが逆転優勝できたのか。
ここがコンクールの面白いところで、必ずしも一位と二位の争いだけに
絞られないのですね。三位四位の劇団の存在が大きな要素になってくる。
今回の鍵を握ったのは、実は決勝戦三位の『劇団カツコ』でした。
カツコは早稲田大学の学生中心に結成されたユニット。従って、同級生
中心に、集客に絶対の強みを持ち、それで予選は圧倒的一位を確保して
いました。ところが、今回その強みが裏目に出た。大学の中間試験日と
公演日がかぶってしまったのですね。二回目は回復しましたが、一回目の
集客票がそれで悲惨なものになり、優勝争いから脱落してしまいました。
ところが、カツコのこの芝居が、審査員たちの心情をいたくくすぐった
のです。と、いうのも、決勝戦四劇団中、ここだけが、決勝戦のために
全く新しい芝居を書き下ろし、短期間で稽古をつけ、臨んできたわけです
(試験は大丈夫だったのか)。

言うまでもなく、それだけの短期間では構成などを練ることも出来なかった
でしょうが、役者たちのがんばりと、その情熱は十二分に受け止められた。
はっきり言えば予選よりもずっと面白い芝居になっていた。
これで、審査員の間に
「決勝戦の評価は、予選の舞台をいかに改良し、工夫したか、そこを一番の
ポイントにするべき」
という空気が醸し出されたのです。

ここで、予選と決勝戦の舞台にほぼ、差がなかったバンビと、決勝戦の
ためにエピソードをまるまるひとつ増やした(だから“+Premium”という
タイトルなのですね)Maverickの評価がはっきり分かれました。

もちろん、それだけでなく、Maverickの、そのひとつ増えたエピソード
の新キャラに、破壊的とまで言えるインパクトがあったことも付け加えて
おきます。卑怯と言われる線スレスレのキャラクターで、満場爆笑の
嵐でした。これは主催者である歳岡氏が勝負を仕掛けたところだった
でしょう。

バンビの『男子と女子と……』は聞くところではこの劇団の代表作だった
とのこと。つまり、完成形になってしまっており、手をこれ以上、入れる
余裕がなかったのだと思います。オムニバス形式で自由にエピソードを
付け加えられる『僕だけの楽園を……』が今回の、“決勝戦までの工夫”に
焦点を当てた審査で有利に働いた。そして、その審査方向を決定したのは、
優勝争いから脱落した三位の劇団の芝居だった……いやあ、コンクール
というのは本当に先が読めないものです。
面白い、と言っては優勝を逃した劇団さんたちにお気の毒ですが、しかし
これほどスリリングだった審査模様も初めてでした。

優勝『Please Mr. Maverick』
最優秀脚本賞『劇団東京バンビ』
最優秀演出賞『劇団東京バンビ』
最優秀俳優賞 小林直人(『突スタイル』)
橋沢進一賞 『劇団我ガママ』
唐沢俊一賞 『劇団マカロニフィンガーズ』
本多慎一郎賞『劇団子犬会議の赤フンコンビとのっぽの弁護士』

打ち上げ会場に向う道でバンビの役者さんがしみじみと、
「九分九厘、ウチが優勝と思っていたんですが……」
と、非常にくやしそうに話してくれました。
申し訳ない。しかし、不正があったとかえこ贔屓があったというわけでは
ありません。演劇というものは、そのときそのときの観客と演者の間に
くり広げられる、一期一会のコミュニケーションです。何万回でも同じ
ものを繰り返せる映像とは、そこが根本的に異る。演劇の審査も、
一期一会、どういう結果が出るかは全くわからない。そこが醍醐味である、
と思って、次のチャレンジに賭けてください。

あと、スタッフ(ルナ劇団員)票、つまり同業者票が最も多く集中したのは、
四位の『すこやかクラブ』でした。肉体をあそこまでパフォーマンスの
道具にするということ、使いこなせるということに、同じく舞台の上で表現を
する者として。羨望の気持ちが強かったのだと思います。さらには、女性の
さまざまな生理現象のアナロジーがいろいろと出てきて、男性はちょっと
ドギマギしましたが、女性たちには共感を得たのでしょう。ここもまた、
さまざまな部分で決勝には新しい工夫を取り入れていました。ただし、
“手直し”にとどまるものが大部分であり、もう少し大胆に手を入れても
よかった(出演者たちの実力なら十二分に対応できた)と思います。
女性の演劇活動がさかんな今日、ここは注目株だと思います。

とにかく、一位から四位までの劇団が全て個性を発揮し、優勝争いに埋没
することなく、自己を主張していたことの素晴らしさは、とても言い表せません。
実際に劇場に足を運び、この一回しかない出会いを、暗い劇場空間の中で
共有した者同士にしかわからないでしょう。

例によって、役者さんたちとは打ち上げで朝まで語り明かしました。
泣いていた劇団もありました。ひたすら女優さんの電話番号を訊き出して
いた役者もおりました。熱い演劇論があちこちで戦わされていました。
オーラのいくばくかをもらったような気がします。
どうかまだ見ぬお客さんたちとの出会いのために、これからも芝居を作り
続けてください、とみんなにはお願いするばかりです。

ルナティック演劇祭、来年はいろいろと都合があってやや時期を早め、3月の
開催になります。ふるってご応募、お待ちしております!

Copyright 2006 Shunichi Karasawa