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2011年4月19日投稿

ネット散策・2

「震災は陰謀だ!」
という陰謀論も、パターンはそんなに多くありません。手段はHAARPを
使うか、地中で原爆を爆発させるかのどっちかに限られますし(陰謀国の
国民全員が椅子に乗って一斉に飛び降りる、とかいうのがあれば面白いんですが)、
陰謀をたくらむ犯人もユダヤであるか、アメリカであるか、せいぜいが月面の
裏側にいる爬虫類人というくらいで、新味がない。
……と、思っていたら、探せばあるもんであります。
「東北地方の震災は日本の陰謀だ!」
と言っているサイトがありました。
これには陰謀論に慣れているはずのと学会員の身としてもオドロイタことでした。
しかも、日本と言っても自×党だの創×学会だのといった組織ではないのです。
なんと、徳川幕府の陰謀だ、というのであります。
昔、東映にそんなタイトルの映画がなかったっけか?

http://park.geocities.jp/j_con4/0204/p046.html#bakuro
『日本の陰謀』
ま、とにかく膨大な文章量で、かつ内容にどこまでもトリトメがないので、
まだ私も完全には把握しきれていないのですが……。

とにかく、このサイトの主催者によれば、アメリカもバチカンも中国も
旧ソ連も、すべて裏では日本があやつっている。その日本を陰で支配する
のは徳川幕府である。明治維新は、諸外国からの締めつけに対し、責任を
全て薩摩や長州になすりつけるための、フェイクでしかない。すべては
徳川幕府が裏で、西郷隆盛のような隠密を使ってあやつっている。日本ばかり
ではない、世界中の国々の指導者とか有名人のほとんどは、徳川幕府が放った
御庭番なのだ
というのであります。

例えばスターリン。
「スターリンは、仲間に自分のことを”コバ”と呼ぶように要求した。(中略)
革命家としてのスターリンは、この偽名を使い続けることになる。“コバ”は、
日本語の“木場”または“木庭”を強く連想させる
。」
「“木場”という姓は日本に約9900名おり、苗字の順位は1621位だ。
大隅の豪族の姓で、薩摩に豊臣氏の末裔である木場氏がいた。現在、鹿児島県
に多い姓だという。」

……だから何?

例えばヒトラー。
「当時の日本では、“ヒットレル”と表記された。日本語の“ひっ捕らえる”の語呂
合わせと考えるとつじつまが合う。」

何のつじつまが合うんだかさっぱりワカリマセン。

このサイト主催者に限りませんが、陰謀論者というのはたいてい、語呂合わせと
日付のこじつけ
が好きです。彼らによると、陰謀をたくらむものの悪知恵と
実行力は凄いものがあるが、陰謀者にはたいてい大きな弱点があって、それは
ほのめかし趣味というか、自分たちの犯罪の痕跡をどこかに残して、わかる
奴にだけわからせたいという衝動にさからえない、ということなんですね。
そして、そのそのほのめかしの手段がたいてい、数字の暗合か、ダジャレなのであります。

このサイト主催者も当然、数字とダジャレに異常に興味を持ち、誕生日とか
事件の日付、そして人物の名前を必ずチェックします。
ダジャレで言えば、
★9・11テロ時の国連事務総長アナンは、阿南惟幾陸軍大将の語呂合わせ
バラク・オバマは当然のことながら小浜市とバラックの語呂合わせ
★駐日大使候補ジョセフ・ナイは日本には“用が無い”。実際にナイ氏はその後
候補から外され、予言は当たってしまいました(笑)

さらに、サルコジ大統領については
「侮辱するつもりはないが、この人の姓は日本語で“猿孤児”となる。この日本語
はサルコジ大統領にぴったりだ。まず体が小さく、猿に似ている。女性問題が
多く、よく女に逃げられる。まさしく女が、“去る”そして“孤児”になる。」

「侮辱するつもりはない」って、さんざしていると思うんだけど。

前大統領のシラクは
「“しらく”という言葉は伝統的な日本語だ。“立川志らく”という落語家も
いる。シラクは1995年大統領に就任したが、同じ年、立川志らくは真打ち
に昇進した。」

このサイトによれば、こういう日本語のダジャレ名前をつけさせるのは、スパイ
の役割を認識させるためだというが、立川志らくの名をつけてどういう役割が
あるというのか? そもそも志らくって名前、伝統的な名前でもなんでもないんだけど……。

もっとひどいのがイランのアフマディネジャド大統領で、
「この人の名前は日本人には覚えにくい。私には、“アホじゃねえぞ”と聞こえる。
失礼だが、この人のひげは乞食にしか見えない。」

まったく失礼な話であります(笑)。

とにかく、この人にとってはこういうダジャレと、あと林家ペーなみに徹底して
調べる誕生日
が、全ての陰謀の証拠になるのでありますね。
例えば、アフマディネジャド氏の誕生日は1958年10月28日。
この日に起きた出来事というのを調べてみると、アメリカで自由の女神像の
除幕式が行われ(1886)、日本では濃尾地震が起きている(1891)。
たまたま同じ日であったとはいえ、全く関係ないじゃないかと思うところですが
陰謀論者の目はそこが違う。
「この地震は濃尾地震あるいは、美濃・尾張地震(みの・おわりじしん)と
呼ばれる。すぐに日本独特の語呂合わせに気づいた。またもや人工地震だ。
日本史上最大の直下型地震になったのもうなずける。地震実験としては最大
規模に達したため、もはやこれ以上の直下型地震の必要はなくなった
のだろう。」

要するに、「美の・終わり」のダジャレのために濃尾地震は起こされた
のであります。

「当時、アメリカは“米国”とも“美国”とも呼ばれていた。本来、美国が伝統
的に使われており、中国や朝鮮では今日でも“美国”と書く。おそらく、日本の
国粋主義者にとって、アメリカを”美国“と呼ぶことは我慢できないことだった
に違いない。”米“の字を当てたのは、”あっかんべー”のつもりだろうと
勘繰りたくなるほど悪意に満ちている。」

1891年と言えば明治24年。そうか、そんな昔から人工地震を起こす技術
があったのか。凄いな、徳川幕府。

この日付と名前の語呂合わせについてはまだまだ紹介したいのですが、とにかく
これだけ分量が膨大で、多岐にわたっていると、紹介だけで日が暮れます。
人工地震の話が出てきたところで、今回の地震の話に移りましょう。

だが、その前に、なぜ、陰謀の主体が日本なのに、地震が日本を襲うのか、
という問題が頭に浮かびます。サイトはそこにも明確な推理をしてみせます。
まず、このサイトが着目したのは、建築物は時間とともに劣化し、崩落する
ということです。サイトはミネアポリスの道路崩落事故に着目します。

この崩落も極超短波(ULF)兵器によるテロだとする陰謀論サイトもありますが、
この『日本の陰謀』はその見解を採りません。滅多に地震も台風もこない
ミネアポリスですら、橋は崩落する。しかも定期的に橋や建物の点検が義務
づけられているアメリカなのに。

そこで、サイト主催者はふと、凄いことに思い当たります。
日本では橋の崩落、ビルの崩落が少なすぎる。 」

これは何故か。

「日本では、危ない建築物は地震や台風が壊してくれる。地震や台風はまさに
建築物の強度テストになる。大型の地震や台風に耐えた建築物は、平常時崩落
することは考えられない。これらの自然災害が検査をしてくれれば、人間の
検査は不要だ。

しかも、これらの災害が物理的なテストをしてくれるおかげで、建築物は崩壊
するぎりぎりまで使用することが出来る。地震や台風で建築物が崩壊しても
誰も責任を負わなくて済む。誰も文句を言わない。経済的には莫大な利益
になる

この論理は、行政責任者や建設会社にとって大きな救いとなる。建築物の検査
は厄介だ。合格と言えば、その後の事故に責任が生ずる。不合格と言えば、
経済的な無駄、伝統の保存などの点で論争に巻き込まれる。」

えーっ。そんなことで地震って起こされるの?
という感じですねえ。
ビルの定期点検をするより安い予算で起こせる人工地震
って、どんな仕組み
で起こすんだ、と思いますが、このサイトはそこを具体的に述べてはくれません。

それに、今回の3・11東北地方地震では、点検どころか大破した道路や
ビルが多すぎました。被災地域で最も深刻な被害を受けたのは福島原発で、ここ
は破損が大き過ぎて、利益どころか莫大な損失を生むことになってしまっています。
とはいえ、ここで陰謀論を持ちださなくては陰謀論者のメンツが立たない。

これまでの検証と事実の照合から陰謀の可能性が極めて大きい。

どういう検証と事実の照合が行われたのか、はっきり言って、このサイトの
主催者もあまりのことに頭が混乱していると見えて、よく理屈が通っていません
(複雑過ぎる陰謀論を立てると、その後の事実とのスリ合わせが面倒になる
という教訓ですな)。ただ、このサイトの基本である“徳川幕府の陰謀”と、
誕生日調べに準拠して、この震災(人工地震)の目的を、こう類推します。

「徳川宗家は今日でも健在だ。東京政府は、徳川宗家嫡男に特別な配慮を
行なってきた。既に誕生日に特別な事件と特別番組を用意した。3月11日は
旧暦の2月7日で、家広氏の誕生日は1965年2月7日だった。 」

東日本大震災って、当主への誕生日プレゼントだったのかあ!

そして、現在もサイト主催者は数々の陰謀の暴露に余念がありません。
先日(4月7日)、主催者は真珠湾奇襲の陰謀を暴露した記事をアップしますた。
しかし、やはりこういう陰謀を暴くと、陰謀者の報復は逃れられない。
4月7日午後11時、最大級の余震が関東を襲ったのであります。
お前のせいかあ!

まあ、妄想というのは誰の脳にも忽然と芽生えます。
こういう妄想を思い浮かべる人がいても不思議はありません。
ただ、どうしても理解しがたいのは、こういう妄想を書き並べたサイトを、
「啓発されまくり」
とか言って愛読している、中小の陰謀ファンサイトがあるということです。
どうも、陰謀論というのは、ある一定以上の人々にとり、精神の安定
に必要不可欠なものであるらしいのですね。
例えばミステリ中毒の人たちにとり、
「ハラハラしながらの読書は体によくないよ。その小説の犯人は○○」
なんて教えてくれる奴がいたら、邪魔くさいだけでしょう。
怪獣映画のファンがテレビにむかい手に汗握っているところに、
「この作品が成り立たないのは、そもそも身長50メートルの生物というのは」
と口をはさんでくる奴がいたら、殴りつけたくなるでしょう。

ある質問サイトで、原発事故関係のデマを拡散しているサイトがあるのを
「ある種の人々にとっては、こういうのは“暗いエンターテインメント”
と表現している回答を見つけ、ハタと膝を叩きました。
陰謀論に茶々を入れるわれわれは、ひょっとしたら上記の、ミステリファンや
怪獣映画ファンたちへのお邪魔虫と同じなのかもしれないのです。

それにしたってこの陰謀論はバカミスであると思いますけれど……。

※ちなみにこの『日本の陰謀』のツイッターまとめがあって、これがこの
サイトの執筆者によるサイトの索引的な役割も果たしています。
これを使っていろいろ読んでいくと、震災以外にも凄いネタが
ぞろぞろ。『セーラー服と機関銃』の考察など、非常にオモシロい!
http://twitter.com/japanconspiracy

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