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2011年3月24日投稿

自粛不況を打破しよう

震災にあった地方の被害はまだまだ復旧に時間がかかりそうで、
心を痛めています。

一方で、東京のあちこちで、予定されていたイベントや公演、
ライブ等の中止・延期が相次いでいます。

停電などの影響でやむを得ないところもあるとはいえ、かなり
先のイベント等も中止を早々と決定するところがあって、驚いて
います。さすがに3月中の野球開催は無茶だろうとは思います
が、その先のことまで見越して自粛を発表するのはどうでしょう。

隅田川や湾岸の花火大会も、7月末、8月の行事であるのに、
もう中止が発表されました。警備の問題、湾外施設等の被害の
問題もあるのでしょうが、いささか早急に過ぎる、という感が
あることは否めません。

石原都知事はコンビニの深夜営業の規制なども検討すると言って
いるようです。
以前から目の敵にしていたコミケなどにも自粛の強制があるかも
しれません。

深夜営業規制などは電力節約に対する誤った認識から出た言葉
でスタッフが訂正してくれると期待していますし(安心できない
のが情けないところですが)、思い掛けないところに地震の
影響があることも重々承知の上ですが、あまりに全てのことを
「被災地の心情を考えて」
という理由で自粛していては、肝心の、日本の復興に最も大事
な“人々の活気”を失わせてしまうと思っています。

震災直後にも表明したことですが、幸いにも災害の直撃を逃れ
た者にとり、最も重要なことは、“日常性”を崩さないことだ
と考えています。いたずらな悲嘆、いたずらな憤慨など、興奮
状態にある精神は正常な思考活動を妨げ、デマや煽りといった
ものに対する正常な批判能力を失わせます。

被災地に対する援助もはげましも、全ては“日常”の生活の中
から生じるべきものです。言葉を変えれば、日常の経済活動、
産業努力が可能な人々が、それを着実に行うことが、最も被災
地域の復興に寄与できることだと考えています。

007シリーズのM役でおなじみのジュディ・デンチ主演の、
『ヘンダーソン夫人の贈り物』(2005)という映画があり
ました。第二次大戦時のロンドンの空襲のさなかに、ヌード・
レビューを上演し、度重なる営業自粛命令にも頑として閉館を
肯んじなかった劇場の物語です。こういうときにこういう舞台
を公演し続けた方も偉いが、通い続けたロンドン子もえらい。
日本でも、東京・渋谷のストリップ劇場、道頓堀劇場が震災
のとき、営業自粛していたのが18日にやっと再開した、と
いうニュースがありました。別に観に行こう、とは思いません
が(笑)、拍手したニュースでした。

花火大会の相次ぐ中止に、中小企業の多い花火製作所の皆さん
の生活は大丈夫だろうか、と心配になってしまいます。他の、
自粛イベント関係者のことも。

これだけの規模の災害です。
ある程度の不況状態が日本を襲うのは覚悟すべきでしょう。
しかし、“不謹慎である”という正義の言葉のもとに、何の
被害も受けなかった人々の生活の糧が奪われる、“自粛不況”
は避けねばならない。

隅田川の花火大会は、もとをたどれば飢饉・疫病等で亡くなった
人々の鎮魂のために、享保時代、両国で花火を打ち上げたこと
が始まりとなっています。逆に言えば、今回の震災で亡くなった
犠牲者をなぐさめるのに、最もふさわしい行事です。

ストリップと鎮魂の神事の話を一緒にするな、と思われるかも
知れませんが、このどちらも、共に“日常”です。日常の
中でわれわれは鼻の下も延ばせば、亡くなった方々に祈る
こともできる。どちらか片方だけというのは不自然です。
どちらもやってはいけないというのはもっと不自然です。

繰り返して言いますが、これからの日本はかなり長きに渡って
の復興の試練を経ることになるでしょう。自粛すべきときには
しなければいけない、そんな時期もある。しかし、やみくもに
自粛、自粛と言い募ることは逆に日本のパワーを失わせます。

「自粛不況」がすでに目の前に見えている気がします。
そこを懸念するものです。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa