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2011年3月14日投稿

片山雅博氏お別れの会

地震でいまだ人心落ち着かぬ3月12日、青山葬儀場にて
執り行われた『お別れの会』に、行ってきました。
一応発起人の友人一同に名を連ねてはいるのですが、
ほぼ何も出来ず、長年の友人であるなみきたかしが、例により
アニドレイたちを酷使して(もちろんみな、片山氏のために
喜んで酷使されていたようですが)練り上げた、いかにも
アニドウの会、という雰囲気の素晴らしい会でした。

交通網もまだ乱れたままの状況に、果たして人が集まるのか
不安でもありましたが、200人以上の人々が参列してください
ました。片山氏の人徳でしょう。

多摩美の教授らしく、多少遺影は気取っていましたが、
小田部羊一氏、藤子不二雄A氏はじめとする関係者の皆さんの
スピーチは、故人の人柄にあいふさわしく、親しみにあふれ、
愛弟子だった加藤久仁生さんの、涙とジョークを交えた惜別の
辞も素晴らしいものでした。不謹慎な話もだいぶ出ましたが、
これが毒舌家であった故人を実に偲ばせるものであって、会場を
笑いに包んでいました。あの悲惨な地震の第一報を耳にして
以来の、ひょっとして最初の笑いだったかもしれません。
もっともブラックジョークとはいえ、弔辞を読む人々が口々に
「私もそう遠くなくそっちに行きます」
と言って〆ていたのはちょっとよしてよ、という感じでしたが。

思えば私が初めて、片チン(われわれはみな、彼のことをそう、
呼んでいました)に会ったのは、恵比寿のシネプラザ・スペース
50で開催されていたグループえびせんの上映会でした。
もう30年も前のことです。そのときから名コンビだった
はらひろしさんの弔辞がやはり最も心に残りました。
上映会当日に上映作品が完成するというドタバタは、
私も観客として何度も実際に見ています(ついに間に合わ
なかった時も)。往時を偲んでそぞろ涙を抑え切れませんでした。

やがて、彼は実作者であるよりも愛好者・研究者として著名に
なっていきました。古いアニメを愛するという嗜好は、それが
ポピュラーなものでないだけに、往々にして超個人的な性質の
ものとなり、他者に理解を求めない、ベクトルが内向きの趣味に
なってしまいます。名だたる研究者やコレクターと呼ばれる人で、
そういう偏狭な性格を持った方にも多々、接し、これはこういう
趣味の持ち主の、ある種の宿痾かもしれない、と思っていた時期
もありました。しかし、片山雅博は違いました。自分の愛する
ものの素晴らしさを仲間に、そして若い世代に伝えようと努力し、
あるときには押し付けに近いやり方をとってまで、アートアニメ
の魅力を次代につなげようとしていました。この姿勢こそ、
われわれがみな、彼から学ばねばいけないものだと思います。
56歳という享年はあまりに早すぎますが、この情熱の軌跡を、
彼の残してくれた遺産だと思いたい。

参列者の中に古いアニドウでの知人たちの顔がたくさんあり、
悲しい中、久しぶりの再会を喜びあいましたが、親しい顔では
ありながら、全く片チンとのつながりを知らなかった人も何人も
おり、“失礼だけど、どういう関係だったの?”と何度も
訊くはめになりました。そのほぼ全員が、彼にいかに深く世話に
なったかを語ってくれて、改めて彼の顔の広さと、その世話好き
であったことに驚いたことでした。弔辞の中にもくりかえし
出た言葉ですが、“かけがえのない人”、これが最も片山雅博に
ふさわしい肩書だったように思います。

帰りの車内で、なみきたかし編集の、いかにも彼らしい労作の
思い出のアルバムを見ていたら、真ん中あたりに見開きで、
似顔絵イラストレーターでもあった片チンの作品のスクラップ
コーナーがありました。彼がアニドウ関係の出版物や映画雑誌
などに描いた作品群です。フレデリック・バック氏やユーリ・
ノルシュテイン氏などのアニメーター、ヒッチコックや黒澤明
といった映画監督、エノケン、トニー谷などの喜劇人、杉浦茂氏、
小松崎茂氏といったアーティスト……彼の闊達な筆遣いを懐しみ、
ディフォルメの技術に微笑みながら見ていたら……何と! その
人物群の中に私の顔があるじゃありませんか。例のグルグル目玉
のやつでしたが、いつの間に描かれていたのか。まったく知り
ませんでした。いや、驚いた。

もちろん私なんぞはホンの添え物、ではありましょうが、
彼が愛した偉大な人物たち、なみきはじめ交友の深かった業界
関係者などの勢ぞろいの中に私も加えられていたことに、
友人として心からの嬉しさと、誇らしさを感じてしまいました。
とはいえ。その描かれようは、私が(多分、古い映画やアニメに
ついてでしょう)ベラベラとしゃべりまくるおしゃべりになって
いて……。おーい、片チン、余人ならともかく、人一倍おしゃべりの
アンタにおしゃべりと言われる筋合いはないぞ!(笑)。

これは、あの世で再会したとき、彼にイッパイおごらせる
口実がまたひとつ増えたようです。そう簡単には行かないが、
片チン、覚悟して待ってろよ。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa