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2011年1月4日投稿

“機”を見た男 【訃報 西崎義展】

何とも謎の多い西崎義展氏死去の報が11月8日に。
自家用クルーザー『YAMATO』(『宇宙戦艦ヤマト』の
最初の海外公開時のタイトルは『Space Cruiser Yamato』)
からの転落死とは、不謹慎ではあるが波乱万丈であった人生に
ふさわしい幕切れであろう。その死に謎めいたところが
多いのもまた。

毀誉褒貶定まらぬとはこの人のためにある言葉だろうが、
少なくともこの人の作った『宇宙戦艦ヤマト』が私の人生ばかり
でなく、その後の日本の文化シーンを大きく変えたことは事実。
岡田斗司夫のブログなどにおもしろすぎる西崎氏の話がいろいろ
出てくるが、残念ながら私の会ったころの西崎氏はまだ、そんな
タイクーンになっていない、ビジネスマンの頃の西崎義展だった。

76年の晩春だったと記憶するが、札幌のヤマトファンたちに
会いたい、と突然連絡があったときのことは未だに昨日のことの
ように覚えている。会ったメンバーが四人だけ、全員いろんな
ファン団体のリーダーではあったが、かろうじて大学生だったのが
一人だけで、残りの私含めた三人が浪人生という情けない身分だった。
それでもちゃんとホテルの会議室をとってくれていたのがさすが、という感じ
だった(ホテルが書いた案内看板に“『宇宙戦艦大和』ファン御一行様”、
とあったのを何故か記憶している)。
「あいたかったよ」
という、岡田斗司夫の本に書いてある挨拶と握手は確かにされた!
「二千万振り込もう」
とは言われなかったが(笑)。

そのときはプロデューサーというよりは営業担当みたいな感じの
人だな、と思ったものだが、やがてヤマトの劇場版が完成、その
発表会で見かけたときは、別人のごときオーラを発していた。
人間、成功すると変わるものだと思ったものである。
あまりいい変わり方とは思えなかったものだけれど。

西崎義展、本名弘文。日本舞踊の西崎流の一族である。
あれは十数年前のこと、タクシーに乗ったら、その運転手さんが
話し好きで、聞きもしないのに自分は西崎緑の夫だったと話してくれた。
かなりの高齢の人だったので、え、あのアイドルだった西崎緑の?
 と訊いたら、そうでなく戦後、西崎流の舞踊グループを率いて
全国を回っていた先代の西崎緑だという。そのマネージャーを務めて
日本中回っているうちに結婚して、夫兼マネージャーを長いこと務めた
のだそうだ(後に浮気がバレて離婚)。
「じゃ、西崎義展って知ってます?」
と訊くと、
「ああ、弘文でしょう。あいつ、俺のカバン持ちで興業について
回っていたんですよ。ところが、いく先々で踊り子に手ェつけやがって
ねえ。とうとう緑が怒って、俺がブン殴って東京に帰したんだ」
……もっとその話を聞きたいものだった。

思えば西崎氏は、そのマネージャー助手という出自、虫プロ商事の
営業という出自から、対スポンサーの営業技術のスキルを磨き、
ヤマトという商品を売り込むことに成功した人物だった。
地方で地道なオタク活動をしている浪人生たちに会いに来る
バイタリティと、“こいつらが将来の商売の鍵になる”と踏んだ
先見性。

機を見るに敏なその手腕は、劇場版『宇宙戦艦ヤマト』の、
劇場用パンフを初版10万部印刷しろと配給の松竹に掛け合い、
松竹がパンフなんてものは寅さんでも2万部しか売れないと
拒否したのを恫喝的に談判し、結局4万部刷ったものが即日
完売して追加印刷することになり、結果80万部近くの売り上げに
なった、というエピソードにもよく表れているだろう。

だが、ヒットを出して、営業をかけずとも自作に買い手が寄ってくる
ようになると、今度は企画力が問題になる。
彼の企画力は復活篇で尽き、その後は陳腐な特攻話を延々パターン
を変えて繰り返すのみになった感があった。ドラッグに溺れたのは
自分のかつてのカリスマを取り戻そうというあがきだったの
だろうと思う。それから先はもう……ドラッグと銃刀法違反と
権利裁判とだけがこの人の話題のような気がしていた。

それでも……真田役の青野武さんが主宰している芸協の
公演を観にいったとき、そのパンフに青野さんが西崎プロデューサー
のことを書いていた。やっと、という感じで『宇宙戦艦ヤマト復活篇』
が公開された頃である。
http://www1.hinocatv.ne.jp/wildcats/yakusha19kara.html
「巨人未だ健在」
やはり、なんだかんだ言っても、西崎義展という人間の存在は
不世出であった。
この原稿を書いた青野さんも直後に病気で倒れ、加療中である。
西崎氏ももういない。歳々年々人同じからず。
ご冥福を心からお祈りする。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa