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2010年9月5日投稿

青山・六本木が似合った男 【訃報・今野雄二】

8月3日、首を吊った状態で発見。66歳。

東京で一番しゃれた場所が青山・六本木で
WAVEで仕入れた洋盤情報にくわしいことがそこらでモテる秘訣で
テレビの話もするけど、“東京12チャンネル”(非テレビ東京)の
話だけで、雑誌はもちろんマガジンハウス、映画は当然洋画、
しかもテーマじゃなくって技巧を語るのがイキで友人には必ず
欧米人が数人混ざっていて……
とまあ、そういう時代と文化が凝って一人の人間を生み出した、
とすればそれが今野雄二という人だったろう。
ゲイがまだ文化人の記号としておしゃれだった頃の人だ。

てっきり東京、それも麻布あたりの出身だと思っていたら北海道、
それも室蘭とは驚いた。たぶん、大学に国際基督教大学を選んだ
のも、地方出身という出自を徹底して無効とし、アーティフィシャル
な都会人として自己を改造するためだったと思う。自己意志が
なければ、あそこまで自分をスタイリッシュに演出出来はしない。

『快感ギャグ番組! 空飛ぶモンティ・パイソン』は、いかにもゲイチック
な今野氏がアイキャッチで
「おかまの恐竜・モンティパイソン」
と言うのがまたシャレっ気がきいててよかった。一度、この番組のトーク
コーナーで『ロッキー・ホラー・ショー』を紹介(当時はひとくくりに
しても誰も違和感も感じなかった)したことがあって、この作品の解説を
今野氏は水を得た魚のようにやっていた。

やがて『モンティ・パイソン』は2回目の放送時にはトーク・
コーナーやタモリ、チャントリの演芸コーナーがなくなり、
今野氏一人が解説としてついた(こっちは北海道では放映されずに
非常にくやしい思いをして、後の上京後に再放送でむさぼるように
見た)。この解説が実にギャグなどのツボを押さえた名解説で、
字幕など細かいところのクスグリも“なぜギャグなのか”を教えて
くれて、私は後にモンティ・パイソンがソフト化されるたびに、
あの解説も収録してくれないかな、と思っていたものだ。

時代の先端を行っていた人、と思っていたのだが、意外なことに
パソコンが苦手で、かなり後まで原稿は手書きだったそうだ。
彼の世代にとり、海外の情報というのは、六本木や青山という
選ばれたスポットから“個人的”ツテで入ってくるものだった。
その近辺に生息することがすなわち、ギョウカイジンの条件だった。
その葦の髄からのぞいた世界に、みんながあこがれていた時代の
代表的“のぞき役”が今野氏だった。パソコン端末が一台あれば、
どんな場末からでも世界とコネクトできる時代には、似合わない人
だったと思う。

鬱による自殺というのは最も彼に似合わないのに、と思ったが
亡くなったのが代官山と聞いて、かろうじて今野雄二という
自分の作り上げたキャラクターの、最期の砦は守った、と感じた。
本当に若い頃はあなたの後を追いかけていたのです。
あなたのようにうまくは全然やれなかったけれど。
東京が一番カッコよく、面白かった時代、あなたの時代に
乾杯と、黙祷を。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa