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2010年7月8日投稿

頼りにされた男【訃報 池田駿介】

6月11日死去。
『帰ってきたウルトラマン』『キカイダー01』『緊急指令10-4-10-10』
など、東映と円谷プロの二大製作会社を股にかけ、昭和の第二次特撮ブームを
語る際に外せない人だった。『正義のシンボル・コンドールマン』などにまで
セミレギュラー(主人公・三矢一心の兄で新聞記者)で出ていた。

『帰ってきた……』では最後まで団次郎と主役・郷秀樹の役を争ったと
いうが、最終的に脇に回ることになったのは、顔と演技が、あまりに
正義っぽすぎたのが原因ではないだろうか。第二次特撮ブーム初期の特徴は
その前に一世を風靡していた(第一次特撮ブームを駆逐した)スポ根
ドラマを取り入れて、主人公が悩み、成長していく姿を描くことにあった
(『シルバー仮面』しかり『ミラーマン』しかり)。その傾向の最も顕著
であったのが『帰りマン』であるが、池田氏のあまりにさわやかなスポーツ
青年そのものの風貌は、そういう“悩み多き”ヒーローには似合わなかった。

その点、“悩むヒーロー”であるキカイダーから“悩まない”典型的ヒーロー像
にチェンジした『キカイダー01』のイチロー役ははまり役だった。
原作のイチローは良心回路を持たないが故に善悪という認識そのものが
ない単純バカとして描かれていたが、池田氏演じるイチローは、月光仮面
以来の、人間的な弱さ全てを超越したヒーローそのものであった。これは
ドラマ設定がそうなっていた、というより、池田氏個人のキャラクター
が作り上げたものだろう。原作を後になって読んだ池田氏はびっくりして
石ノ森章太郎氏に謝ったというが、石ノ森氏も、池田氏にはあれが似合って
いるんだから、と笑って許したそうである。結局、“悩む”部分は後半にビジンダーという
不完全良心回路を持つキャラの登場で補われることになる。

池田氏は悩む郷秀樹や、悩むジローの頼れる“アニキ”だった。
兄貴という存在は太陽のようなものだ。誰もが太陽をありがたがるが、
しかし、太陽のことを語る人はあまりいない。はるかに暗い、月の
存在感に太陽はかなわない。『帰りマン』では西田健演じる意地悪キャラの
岸田隊員に、『キカイダー01』では志穂美悦子演じるビジンダーに、
話題性をさらわれてしまっていた。しかし、それでもなお、太陽が
なくてはわれわれは生きていけない。池田氏がこれだけ特徴ヒーロー
番組に出演していたのは、その存在の必要性を誰もが認めていたからに
他ならない。

その後、テレビで『水戸黄門』を見ていたら、池田氏が出演していた。
光圀の息子をおだてて黄門を気取らせ、逆に庶民を苦しめている悪家来
という役柄だった。時代劇を見ると、ときどき子供番組のヒーローが
悪役をやっているのに出くわすが、例えば黒部進や坂口祐三郎が悪党
を演じていても、それなりに面白がれるのに、池田氏の場合はちょっと
違和感を覚えた。心の中に、この人だけは正義の味方しか演じない、
という意識があったのかもしれない(『秘密戦隊ゴレンジャー』での
ダイガー仮面の人間体、モモレンジャーの初恋の人役はそれを逆手に
とったキャスティングだった)。

キカイダーに日本人以上に熱狂するハワイでは、池田氏はジロー役の
伴大介氏とならんで英雄あつかいだったそうだ。役者冥利にはつきた
ことだろう。とはいえ、69歳。早すぎる死ではあった。

池田氏に最期までついていた私の知人から聞いたのだが、
私がBSの番組で特撮のことを話しているのを見て、ぜひ一度
お会いして話を聞きたい、とおっしゃっていたそうである。
その機会が持てなかったことを悔やんでも悔やみ切れない。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa