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同人誌

2010年5月26日投稿

広いマッチョのジャングルに…… 【訃報 フランク・フラゼッタ】

5月10日死去、82歳。

どこだったかの映画紹介ブログに
「剣と魔法が支配するフラゼッタな時代」
という文章があって大笑いしたことがあった。
まさにソード・アンド・ソーサリーというジャンルは、
ソード・アンド・ソーサリー・アンド・マッスルと言い換えていいほどに
一時、黄色人種には逆立ちしてもついていけないマチズモの世界と
なり果てて、われわれはアーノルド・シュワルツネッガーや
ドルフ・ラングレンといった白人俳優の筋肉美に口をあんぐりさせて、
感心というよりはオソレ入っていた。
彼らマッチョ俳優の採用基準は、”フランク・フラゼッタの絵にイメージ
が近い“ということではなかったか。
少なくとも『コナン・ザ・グレート』のシュワルツネッガーの起用は
そうだったと思う。コナン・シリーズと言えばSFファンには名探偵
ではなくてバーバリアン、その、近年のファンの大部分は作者ハワード
よりもイラストのフラゼッタの信者であり、よほどイメージが近く
なければ納得しなかったはずだ。
その、うるさい彼らをして満足せしめたシュワルツネッガーの肉体は
まさにフラゼッタのイラストの現出であった。

フラゼッタはデビューしばらくはマンガ家であった。最初新聞のギャグ
マンガを描き、やがて1950年代のアメリカで大人気だったマンガ、
『リル・アブナー』(アル・キャップ)のアシスタントになる。
当時の新聞マンガというのは完全な工業製品で、絵もストーリィも
全部アシスタントたちが担当して流れ作業で執筆され、作者は
最終チェックするだけ、というのが一般だった。フラゼッタも、
たぶんほとんどの絵を描かされていたのだろう。
で、この『リル・アブナー』、見ればおわかりと思うがギャグマンガ
でこそあれ、男はひたすらマッチョ、女はすさまじいグラマーな世界だ。
http://www.cutemation.com/classic-cartoon-characters/lil-abner/
後のフラゼッタのマッチョ世界の原型は、この『リル・アブナー』に
あったのではないかと想像する。

このアル・キャップのもとで6〜7年もこき使われ、フラゼッタは
マンガの世界がとことんイヤになったのだろう、そこから足を洗い、
イラストレーターとしてデビューする。1964年に『ターザン』の
表紙絵を描いてブレイク、読者はフラゼッタの絵を見たくて新刊を
待ち焦がれる、と言われたほどの人気を博した。

そして、その後『蛮人コナン』シリーズをはじめ、多くの剣と魔法と
サイエンスの世界をマッチョな主人公、グラマラスな半裸もしくは全裸
の美女が跳梁するイラストを手がけ、世界的な名声を得る。
……長いこと、フラゼッタの絵の人気を支えているのはゲイたち
なのではないかと思っていたのだが、その予想はある程度あたって
いたようだ。フラゼッタの技法、そして魅力について、日本でも最も
詳細かつ適確に指摘しているのは、あの田亀源五郎氏のサイトなので
ある。ここを読めば、拙い私の解説などほぼ、読む必要がない。
http://tagame.blogzine.jp/tagameblog/2008/05/conan_the_pheno_21b4.html

……ただ、田亀氏の言及していないところでひとつ指摘すれば、
フラゼッタの描く男たちには、明らかに、白色人種たちによる
異文化、異人種への畏怖心がモチーフになっている。古くアッチラ大王
がもたらした、野蛮人たちに対する遺伝子レベルの恐怖と、そしてその
裏返しの原始へのあこがれがそこに通底している。
1960年代という、人種問題がアメリカの抱える大きな問題として
露呈してきた時代に、フラゼッタが時代の寵児としてブレイクしたのも
当然と言えるだろう。

晩年のフラゼッタは、自らの認知症と、自分の絵の版権をめぐる家族との
係争で、必ずしも幸福とは言えなかったそうだ。そう言えば、こういう
報道も昨年、あった。

フランク・フラゼッタの息子(52才)が、ペンシルバニアに
あるフランクフラゼッタ博物館から90枚の画(約2000万ドル、約17億
円相当)を盗もうとして逮捕された。男二人とバックホウで壁を
ぶち破り、画を盗もうとしたという。

フラゼッタJrは、父親から「どんな手段ででも」立ち入って画を持ち
出して良いという許可を受けていると主張したが、フラゼッタ(父)は
否定したという。

フラゼッタJrの妻は、家族間の不和が原因であり、フラゼッタJrは
自身の行為が家族内の民事訴訟の結果に基づいたものと主張している、
と述べた。

http://www.poconorecord.com/apps/pbcs.dll/article?AID=/20091210/NEWS/912109991

“「どんな手段ででも」立ち入って画を持ち出して良いという許可を受けて
いると主張した”
父が得意としたマッチョイズムを、息子は変な部分で受けついでいた
ようである。心労の多かったことであろう。
まずはこういうことから解放されてゆっくりお休みを、と言いたい。
黙祷。

Copyright 2006 Shunichi Karasawa